第129話 遊び人は、混浴温泉旅行を計画する

「それじゃ、上手く行ったんスね」


「ああ、あとはおまえの言っていた『温泉』に連れて行くだけだ」


 オランジバークに新しく建設された教会で、レオナルドは作戦が上手く行ったことをみんなに報告した。さっきの視察の話は方便で、本当の目的は、最近忙しくなったアリアの疲れを癒すことにあるのだ。


「ホント、いつ見ても忙しそうにしてますからね。このままだと、体壊してしまいますよ」


 そう言ったのはマルスだ。アリアがこちらで外出する際は、警護隊長としていつも行動を共にしているだけに、説得力がある。


「よかったですね。あの温泉、とぉっても、よかったですから、きっとアリアさんも疲れを癒せると思いますよ」


 一方、そう語るのはイザベラ。丁度、シーロたちとポトスに行っている時期に、ラモン族の支配地にある温泉にボンと二人っきりで行ったのだとか。温泉の効果なのか、肌つやがとても良いように見える。


(あれ?本当に温泉の効果だけなのか)


 レオナルドがそう思っていると、マルスがボンの肩をガシっと掴んで囁いた。


「……なあ、ボン。まさかと思うが、おまえたち……」


「え……あ、その……混浴だったし、押し倒されたというか……」


 ボンはマルスの圧に屈して、何があったのか告白しようとした。……が、どこから飛んできたのか、金たらいが頭を直撃して沈黙した。


「イザベラさん……」


「なんですか。レオナルドさん?」


 犯人は明白だった。しかし、イザベラは何もなかったように、笑顔で問い返してきた。


「……いや、なんでもありません」


 笑顔だが、どこか恐怖を感じて、レオナルドはボンを不憫に思いつつも、自分ファーストで屈した。それはマルスも同じだったようで、この話題にはこれ以上触れないようにと心に誓うのだった。


(しかし、混浴か……)


 それは良いことを聞いたと、レオナルドは思った。何せ、最近あまりにも忙しくなり、スキンシップが取れていないのだ。結婚式のことも延期になったまま、ひょっとしたら忘れているのではとさえ疑っている。


 ゆえに、ここに居る皆の思惑とは別に、今回のことを関係進展のきっかけにしたいとレオナルドは思っている。もちろん、そんなことを口にすれば、独身彼女なしのマルスに刺されそうなので言わないが。


「あっ!いた。イザベラさん。絵描きさんから例のポスターができたと」


 見ると、そこにいるのはアリアの秘書を務めているアンジェラだ。手には何やら絵が描かれた紙を持っているが……。


「なにやってるの?」


 思わずマルスが訊ねると、アンジェラは言った。「ボンさんの選挙の準備のお手伝いですよ」と。


「「選挙!?」」


 レオナルドとマルスの声が重なった。


「本当にボンを立候補させるのか?」


 レオナルドは、イザベラに確認する。すると、彼女は事実であると認めた。なんでも、お腹の赤ちゃんの父親がバイトの似非神父じゃかわいそうだと。


((リア充死ね!!))


 レオナルドとマルスは、心の中でボンを散々罵った挙句、倒れたままの彼を呪い殺すような目で睨んだ。


(それにしても、ついに選挙か……)


 もうすぐ町は完成を迎える。新しい役場もできており、来週には引っ越すと聞いてもいる。そうなると、アリアの後任を選ぶ選挙もそろそろ行われることになるだのだ。こうして準備が進められていくのも当たり前なのかもしれない。


「マルス。他の立候補者は誰なんだ?何か聞いているか?」


「今のところは、軍を代表してマリアーノさんと、元盗賊のディーノが立候補するって言う話は聞きましたけど……」


 どちらも強固な支持者がいる。とてもじゃないが、ボンが太刀打ちできるとは思えない。


「イザベラさん。本当にボンを立候補させるのか?」


 ゆえに、レオナルドは改めて訊ねる。止めるのなら今のうちだと思って。しかし、イザベラは笑い出した。


「何がおかしいのか?」


「だって、うちの人が勝てないように言うんですもの。可笑しくって」


 その言葉に、レオナルドだけではなくマルスも首を傾げた。すると、イザベラは自信たっぷりに言い放った。


「まあ、任せてください。鮮やかに勝って見せますから」

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