第128話 女商人は、山積する課題に行き詰まる
「新たな交易品……ですか?」
「そう。南方と交易をしようと思うんだけどね。あちらは暑いから毛皮はいらないようだから、何かないかな……ないわよね……」
北部同盟の代表たちが集まる定例の会合のあと、アリアは比較的友好関係にあるラモン族の代表であるラージーさんに訊ねてみたが、芳しい答えを持っている顔には見えない。なお、ラージーは族長であるレージーの甥にあたる。
「すみません。お力になれずに……。それより、本当なのですか?アリアさんがオランジバークの村長を退任されるというのは?」
ラージーは不安そうな顔を隠さずに訊ねるが、アリアはこれを肯定した。
「みんな考え直してほしいっていうけど、わたしには『勇者に復讐する』という重要な使命があるの。わかってもらえないかしら?」
「しかし、それだと折角この地域にもたらされた平和と安定が危うくなりますぞ」
「あら?わたしがいないと危うくなるのなら、早いか遅いかの違いなのでは。だって、わたしは永遠に生きられないのですよ?」
ここから先は、みんなの力を合わせて同盟を運営していくことこそが、平和と安定を永遠のものに近づけて行くことになるのだと、アリアは言った。もちろん、その『みんな』の中には自分もいることも強調する。ラージーは引き下がった。
(……とはいったものの、このままだとジャラール族の力が強すぎるのよね)
ラージーが帰った後、執務室に戻ったアリアは壁にかけた地図を見ながら独り言ちた。
(せめて、ルワール藩との交易で、ヤンさんのネポムク族が力を得ることができれば一安心なんだけどな……)
親書を手渡してからすでに2カ月に迫ろうとしているが、未だに返事は返ってきてはいない。やむなく、氷石はジャラール族を介してアルカ帝国から仕入れるようにしているが、関税を上乗せされているため、利益は出ているもののその額は微々たるものであった。
「はぁ……頭が痛いわ……」
「どうしたんだい?アリア。頭が痛いのなら、治癒魔法をかけようか?」
「レオ……」
見ると、いつの間にかレオナルドが部屋に入っていた。どうやら、考え込み過ぎて気づいていなかったらしい。
「ありがと。でも、本当の頭痛じゃないから大丈夫よ。ただ……課題が山積してるなぁって思っただけだから……」
「そうか」
レオナルドは何となくだが事情を察した。
「なあ、アリア。交易品のことなんだけど……」
「ん?なに?」
「俺は思うんだが、自分の足で各地を回って、自分の耳で人の話を聞き、自分の目で物を見ることが大事なんじゃないか?ここで座って部族の代表から話を聞くよりもさ」
その方が、新しい交易品を発見できるかもしれないのではないかと、レオナルドは言った。もちろん、アリアもそれが正しいということは理解している。
「でも、村のことも、商会のこともあるのよ?いくらなんでも、そんな時間は……」
調査に赴くとなれば、数日、いや、下手したら数か月単位で留守にしないといけない。この北部地域は広大なのだ。当たり前だが、移動の時間が非常に馬鹿にならない。
しかし、そんな頭が固まったアリアを見て、レオナルドは笑う。
「なによ……何がおかしいのよ」
「だって、転移魔法を使えばいいじゃないか」
「あっ!」
その手があったかと、アリアは思わず唸った。凝り固まった己の思考回路が少しずつ回り始めていくような気がした。
「それでも、調査時間はかかるわ。1日あたり2時間、3時間?そんな時間取れないわよ……」
「あのさ、村の方も商会の方も、アリアが思っている以上にみんな頑張っているよ。信頼してさ、それくらいの時間、取ってもいいんじゃないか。新しい交易品、見つけたいんだろ?」
レオナルドの言葉に、アリアは頷いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます