第118話 女商人は、真実に気づかない
「……ハラボーさん」
「ああ、すまないね、クリス君。ついつい、懐かしくてね」
その声に、そう言えばクリスもいたことを思い出すアリア。取り合えず、立ち話もなんですからと、二人に席を勧める。
「ところで、今日はどうかなさいましたか?」
「ええ。一先ず先日の一件が片付いたのでご報告をと思いまして。まあ、ハラボーさんとご一緒することになったのは偶々ですが……」
そう言って、クリスは総督であったジュリオが自裁したこと、ニーノが拘留中に謎の死を遂げたこと、カストたち犯罪に関わった者たちが縛り首になったことを報告した。
「そう……」
アリアはただ一言そう言って、目を瞑った。また手を汚したことを自覚しながら。
「アリア……」
「あ……ごめんなさい」
そんなアリアの心中を知ってか、レオナルドに声を掛けられてアリアは目を開く。今更、後には戻れないと自分を言い聞かせながら。
「そういえば、クリスさんとハラボー先生って知り合いなんですか?」
重たい話題から逃げるかのように、アリアは言った。すると、二人はなにやらアイコンタクトでやり取りしている。その様子を見て、アリアは驚いたような顔をして両手を口に当てながら言った。
「お二人って……そういう関係なんですね」と。
「いや、違うからね?わたし、こんなおじいさん、好みじゃないから!!」
「おじいさんとはなんだ!!ワシはまだこう見えてもまだ50前だ!!年寄なんかじゃないわ!!大体、ワシは男色趣味などは……」
喧々諤々。目の前で言い争いが始まった。
「……アリア。わかってて言ってるでしょ?」
レオナルドが呆れたように言うと、アリアはペロッと舌を出した。すると、二人は揶揄われたことを悟り、矛を収める。
「……実のところ、フランシスコ殿より手紙をいただいてね。アリアちゃんが生きていると知って飛んできたのだ。クリス君は偶々彼から頼まれてワシを案内してくれただけだ」
ハラボーがそう言うが、アリアは怪訝そうな顔をした。
「どうして、フランシスコさんが先生に、わたしの無事を知らせるので?」
ポトスの豪商人とハルシオンにある大学の一介の研究者。どう考えても、接点がないように思われる。それとも、フランシスコがハラボーに何か研究を依頼したことがあるのだろうか?それにしても、二人の共通の話題に自分が上がるのは理解できない。
そう思っていると、またハラボーはクリスにアイコンタクトを送った。そして、クリスが頷いた。
「ハラボー先生?クリスさん?」
アリアは怪訝そうにそう言うと、二人は突然立ち上がったかと思うと、アリアに向かって膝をつき、頭を下げた。まるで騎士が主に忠誠を誓うかのように。
「ちょ……ちょっと……」
何をしているのかとアリアは戸惑っていると、ハラボーは言った。
「王女殿下」と。
ポカンとするアリア。何を言ってるかわからないとレオナルドを見るが、彼も同じような顔をしている。
「せ……先生?何を冗談言ってるんですか。王女様なんてどこにいるんですか?」
少なくても、ハラボーの視線の先には自分以外は誰もいない。それとも、自分に昔殺された王女様の幽霊でも取り付いているのか。そう思って、顔を青くしていると……。
「王女殿下とは、あなた様のことにございます」
戸惑うアリアに今度はクリスが答えた。そういえば、この人にお姫様ルックをさせられたことをアリアは思い出した。
「クリスさん。もうあの遊びはいいですから。お姫様にあこがれる歳じゃないですし……」
あのとき、はしゃいでいたことを棚に上げてアリアは言った。今度はクリスがポカンとした顔を浮かべる。
「大体、こんな貧相で色気のない女が王女様なんてあるはずないでしょ。もう……自分で言ってて悲しくなるじゃない。あ……さては、さっきの仕返しね!!」
アリアは一笑に付した。
「いや……アリアちゃん。本当のことだよ?話を聞いて……」
「はい!先生、アウトぉ!!わたしが王女様だったら、間違っても『アリアちゃん』なんて呼ばないわ。語るに落ちたわね?」
「あ……つい、いつもの癖が……」
アリアの指摘に、ハラボーは自らの失態に気づき、項垂れた。
「クリスさんもそうでしょ?わたしがもし王女様だったら、オルセイヤ王国が滅んじゃうわよ?だって、わたし、お宅の国の総督に犯されそうになったのよ。囮捜査とはいえ、王国に仕えている人がそんな危険なことさせるわけないわ」
指摘はごもっともだ。総督を自裁させた時に使ったネタがブーメランのように帰ってきたことをクリスは悟った。
「もう、二人とも冗談ばっかり言ってないで、さあ、立って。先生、膝痛いんでしょ。無理してクリスさんの冗談に付き合わなくていいから」
アリアに促されて、ハラボーもクリスも立ち上がる。二人はまたアイコンタクトを送り、今日の所はここまでにしようと合意するのだった。
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