第114話 番頭は、裏切りの報いを受ける

「ちょっと待ってくださいよ!!協力したら、罪を免じてくれるって話だったじゃないですか!!」


 遠くから、騒がしい声が聞こえてくる。同じ部屋にいるカストの顔が変わったところを見ると、どうやら恨みがあるヤツの声のようだ。


「嘘は言ってないさ。明日には釈放してやるんだから。ただ、手続きには時間がかかるんだよ。今日一晩は申し訳ないけど、ここで過ごしてほしいんだ」


「しかし……」


 男が怯えたようにこちらを向く。すると、カストがみんなを手招きして集めると囁いた。「あいつが、裏切り者のニーノですよ」と。


「ほう……」


 調査官の野郎も粋なことをすると思った。どうせ、明日には縛り首だ。罪状に人ひとりの殺人が加わったところで、もはや関係ない。それは、ここにいる元紳士の皆さんも同じ意見のようで、ニーノって野郎が早く入ってこないかと待ちわびている。


「ひっ!!」


 その思いがニーノにも伝わったのだろう。その顔に恐怖がはっきりと浮かんだ。


「お願いします!!あんなところに入れられたら、明日どころか、1時間も経たずに殺されてしまいます!!」


「そう言ってもな。部屋がもうないんだ。諦めてくれ」


 そう言って、ニーノを連れてきた警察官は、牢の鍵を開けて早く入るように促す。


「い……いやだぁっ!!」


 ニーノは逃げ出そうと、警察官が拘束していないことをいいことに元来た道を戻ろうと走り出すが、嬉しいことにそこには逃げ出せないように、ガタイのいいお巡りさんが出口をしっかり固めていた。


「助けてくれ!!頼む!!こんなのあんまりだぁ!!」


 ガタイのいいお巡りさんに両脇を持ち上げられながら、ニーノは泣きわめくが、どうすることもできず、そのまま牢の中に放り込まれた。


「まあ、本当に明日には必ず迎えに来るからさ。……生きていても、死んでいてもね」


 そう意味深な言葉を残して、警察官はガチャリと扉に鍵をした。


「あ……」


 ニーノの口から、絶望する音が漏れ聞こえた。同時に、警察官たちの足音が遠ざかっていき、聞こえなくなる。


「さて、諸君」


 カストがそれを待っていたかのように口を開いた。


「この男は、我々の崇高な使命を理解しようともせず、我々を官憲に売った卑劣で愚かな男だ。さて、どのようにして殺そうか。紳士諸君の忌憚ない意見を伺いたいのだが……」


 その言葉に、牢の柵にしがみついていたニーノは、怯えたようにこちらをゆっくり振り向く。


「取り合えず、こいつが望んでいた『1時間で死ぬ』というのはやめましょう。時間はたぁ~っぷりあるわけですし。オイこら!!わかったら、さっさとズボン脱いでケツを向けやがれ!!」


 ジョニーズ商会の会頭だった爺さんだ。両刀使いという噂があったが、まさか……ここで掘る気か?


「爺さん……。さすがに、それは引くわ。みんながいるんだから、もっとスマートに殺しましょうぜ?」


 スマートに殺すってどういうことなんだろう?そう思っていると、総督府で税務局長だったラビーさんがニーノの襟首をつかんで引きずり倒すと、馬乗りになって顔を殴り始めた。


「ぐちゃぐちゃ考えねぇで、こうして殴り殺せばいいだろうが!!此奴のせいで、俺はっ……すべてをっ……失ったんだからな!!糞ったれがぁ!!」


 時折、「やめて」とか「許して」とかいう声も聞こえてきたが、この一件で輝かしいキャリアをすべて失ったラビーさんは容赦することなく殴打を重ねる。


「ラビーさん。後もいるんだし、そろそろ交代で」


「おお……わかった」


 カストの言葉で、ラビーさんはスッキリしたような顔をして立ち上がり、順番を譲った。見れば、ニーノの顔はすでにボロボロで、周辺には歯のようなものが転がっていた。


「だ……だずげで……」


 まだ意識があったのか、ニーノはしぶとくもそう言うが、神父だったドーラさんに顎を蹴飛ばされて沈黙する。


「哀れなるニーノよ。汝の罪、今こそ償う時が来たのだ。悔い改めて……神のお仕置きを受けるがよい!!」


 どうやって隠し持っていたのだろうか。懐から鞭を取り出して、容赦なく打ちつけ始めた。「お前のせいで、ワシは破門されたじゃないか!!」と叫びながら。


「さあ、仕返しをしたい人はここに並んで。ああ、このままじゃ全員に行き渡らないだろうから、ここからは一人5分でお願いします」


 カストがそう言うと、皆一列に並び始めた。前から数えて12番目か。それまで生きていてくれるのだろうか?目の前でお仕置きされ続ける哀れな子羊を見てそう思った。

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