第113話 藩主代行は、イケメンに当てられてやらかす

「お待たせして申し訳ありませんでした。藩主チェスラ・ルワールが娘、ルーナと申します。父が帝都に赴いており不在ですので、代わってお話を承りたく……っ!?」


 型通りの挨拶を終えて、顔を上げるとそこには超イケメンが!!ルーナは思わず、見とれて言葉を詰まらせた。


「どうかされましたか?」


「な……なんでもありませんわ!!」


 いけない。相手は外国の招かれざる客なのよ。そう思い直して、ルーナは、慌てて取り繕うために、目の前に置かれていた茶を一気に飲む。


「うぐっ!?」


「だ……だいじょうぶですか!?」


 お茶が熱くて、涙目になるルーナを目の前のイケメンは気遣ってくれた。口の中は痛いけど、何か得した気分になる。しかし、そうも言っていられない。


「だ……だびじょぶぶでず……」


 ルーナは痛みが引かない口を酷使して、なんとか言葉を返した。……が、まったく大丈夫でないその姿に、イケメンは苦笑した。


(笑われた!?……いやぁ!!もうお家に帰りたい!!)


 恥ずかしさのあまり、顔を真っ赤にして俯くルーナ。怖くて、顔を上げることができない。すると、目の前から声が聞こえた。


「取り合えず、これを。口のやけどの痛みを緩和してくれる薬ですので……」


「えっ!?」


 思わず顔を上げると、そこには液体が入った小瓶が。


「あ……、失礼しました。見ず知らずのわたしから貰ったものなど、怖くて飲めませんよね?」


 とても爽やかな笑顔。ルーナの胸がドキュンと高鳴る。


「いえ!!ぞんなことありまぜんわ。ありがどうござびます!!」


 ルーナは小瓶に手を伸ばしてそれを受け取ると、一気に中身を飲み干した。痛みはたちどころに消えていった。


「姫様!?」


 傍に居た家老のザヤンが慌てるが……


「大丈夫よ……騒がないで。ホント、すごいわ。全然痛くなくなったわ!!」


 ルーナはそれを制し、薬に効果があったことを喜んだ。


(本当に、すごいわ。北の野蛮人だと思っていたけど、見識を改めないといけないようね……なにしろ、イケメンだし!!)


 空になった小瓶を手に取りながら、そう思った。


「……それでは、改めて名乗らせていただきます。わたくしは、北部同盟に所属するネポムク族の族長で、ヤンと申します。この度は、盟主アリア・ハンベルクの名代として、罷り越しました」


 その挨拶は洗練されたものに見えて、ルーナはうっとりとした。


「……姫様?」


「あ……コホン。ご丁寧なご挨拶ありがとうございます。先程のことといい、我が領内から攫われた者たちを連れ戻して頂いたことと言い、誠にありがとうございました。父に成り代わって、お礼申し上げます」


 ザヤンに促される場面もあったが、ルーナは藩主の代理として相応しい態度で、返答の言葉を述べた。


 しかし、本題はここからだ。家老たちからは、おそらく交易の許可を求めてくるのではないかと聞いている。そして、そのような話が出れば、必ずはっきり断るようにと、ルーナは念押しされていた。


 そのことを再確認していると、ヤンはスッと1通の書状を差し出してきた。


「これは?」


 宛名も何も書かれていないため、何だろうとつい手に取ってしまい、確認していると……


「我が盟主から藩主様への親書です」


 ヤンははっきりそう言った。ルーナの顔色が変わる。


(しまった。やられた……)


 今、書状は自分の手の中にある。つまり、藩主代行として親書を受け取ってしまったのだ。こうなっては、返すことはできない。下手をすれば、戦争になる。


「……姫様」


 振り向くと、ザヤンが呆れたような顔をしてこちらを見ていた。ため息をつきたいが、さすがに我慢しているような顔で。だが、何も言わない所を見ると、どうやら手遅れのようだ。


「ヤン殿。確かに受け取りました。あいにく、父が不在ですので、お返事には時間がかかるかと思います。一旦、帰国されてお待ち頂けないでしょうか?」


 あとで叱られるだろうなと思いながら、ルーナはそう告げるのだった。

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