第108話 女商人は、捕まった哀れな女を演じる
「アリア……何も君まで参加しなくても……」
顔に煤を塗りながら準備を行うアリアに、レオナルドは心配そうにして声を掛けた。
「もう……何度も言ってるでしょ。ニーノの話だと、総督はこちらの女の人に飽きているって話じゃないの。もし、来なかったら事件は中途半端で終わっちゃうんだから、目玉商品を用意しないと……」
見れば、衣服は所々破れて下着や肌を露出している箇所も見受けられる。確かに、攫われてきた女性の姿に見えるが、そんな姿を自分以外に見せたくないという気持ちもレオナルドにはあった。
「よし。これで準備はバッチリね。レオこそ頼んだわよ。ニーノが変なことをしないようにしっかり横で見張ってね」
「ああ、わかっている。もっとも、ヤツのアレにブラスと同じ魔法をかけておいたから、逆らうつもりなんてないと思うけどな」
そう言って笑うレオナルドに、アリアは意味を理解して少し引いた。もちろん、可哀そうとは思わないが。
「それじゃあ、行こうか」
レオナルドは、アリアと共にクリスが待つ港の倉庫に転移した。
「これは、これは総督閣下。よくぞ、お越しくださいました」
倉庫の入り口で、この品評会を主催するカスト・アルバネーゼが総督ジュリオ・リヴァルタ侯爵を出迎えた。その横にニーノが、そのニーノの後ろにレオナルドが控えている。
「皆、すでに揃っているか?」
「もちろんでございます。ですので、閣下には早く選んでいただかないと、苦情が殺到して困ります」
「そうか。それなら、早くしてやらないといけないな」
通路を歩きながらジュリオとカストは、談笑しながら進む。レオナルドは反吐が出る思いを押さえながら、その後を追従した。
「では、閣下。どうぞ」
カストに促されて、舞台に上がるジュリオ。そこには、総勢52名の女性が怯えた様子で並ばされていた。
「ほう……」
その中で、一人だけ目立つ者がいる。肌の白さ、美しいブロンドヘア。まさに、本土——ルクレティアの女だ。
「あなたたち、頭おかしいんじゃないの?こんなことして……ただじゃすまないわよ……」
弱弱しいが、気丈にもこちらを睨みつけて抵抗を示す姿勢もジュリオの性欲を刺激する。
(おい、おい、煽るなよ……)
ジュリオの後ろでレオナルドは、心の中でそう思いながら様子を窺う。もちろん、演技なのだが、気づかれた様子はなかった。
「それで、いかがします?」
「気に入った!!気に入ったぞ、カストよ。この女にしよう!!」
「かしこまりました」
カストは恭しく頭を下げると、ニーノにアリアを別室に連れて行くように命じる。
「いや……放してよ!!」
「いいからついてこい!!」
アリアは抵抗するが、レオナルドに腕を掴まれて舞台から連れていかれる。ニーノも一緒に。その様子を見ながら、ジュリオは今宵どのようにしていじめてやろうかと、舌なめずりをした。
(まず、手足を縄で縛り、それから衣服を引き裂いて、怯えるあの娘の唇を……)
「……閣下?」
(ひひひ……さて、どう泣くのかな?ここに居ない神様か、それとも母親に助けを求めるか?その後の絶望に染まる顔が……)
「閣下!!そろそろ、お言葉を」
「え……ああ、そうであったな」
(いかん、いかん。少し妄想の世界に入り過ぎていたようだ)
ジュリオはオホンと咳払いして、気持ちを切り替えた。
「あー、お集まりの紳士諸君。今日は待ちに待った奴隷市場の前夜祭だ。こちらに取りそろえた女どもは、すべてあのにっくきアルカ帝国産だ。多少触ってもかまわんから、当日高値を付けて購入できるように、各々品定めをしてもらいたい。以上だ」
簡単だが、ジュリオの挨拶に舞台の下からは拍手が起こった。
「それでは、みなさん。お待ちかねの品評会を開始します。お渡しした番号札の順番に、舞台へお上がり下さい」
カストの言葉を聞きながら、ジュリオは足早にさっきの女が連れていかれた部屋に向かうのだった。
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