第104話 女商人は、一番得する方法を考える
「それじゃあ、アリアさん。我々は予定通り先程の場所で陣を張って、明朝、帝国に向かいます」
「くれぐれも慎重にね。それと、これがわたしからの親書。アンジェラに頼んで帝国語で記しているから、そのまま渡せばいいからね」
「承知しました」
少し離れたところで、アリアがヤンを送り出そうとしているのが見えた。どうやら、彼女は帝国には向かわないらしい。本土の人間である自分が行けば、話がこじれる可能性があるからだという。
なるほどな、とクリスは思った。
「……となると、これからどうするのですか?」
「え……?そのまま、家に帰りますけど?」
さも当然のように答えるアリア。転移魔法であっという間に帰るんだろうなと思い、クリスはうらやましく思った。
(でも、それならば……)
日時さえ決めておけば、二人の力を借りることができるのではないかと考えて、話を切り出した。
「アリアさん、レオナルドさん。できれば……」
「断る」
「……レオナルドさん。まだ何も言ってませんが?」
「どうせ、そこの商人の背後にいる奴らを捕まえたいから手伝えって言うんだろ?大方、俺の魔法を当てにして……」
目論見のうちの一つがレオナルドにあっさり見抜かれて、クリスは苦笑する。なにせ、レオナルドの魔術の才能はまさに父親である大賢者譲りなのだ。当てにするなというのが無理というもの。ただ……。
「まあ、それもあるけど、今必要なのはむしろアリアさんの頭脳でして……」
「えっ!?わたし?」
思わぬクリスの言葉に、アリアは驚き声を上げた。すると、クリスは説明した。ニーノの証言だけでは、恐らく背後にいると思われるポトスの総督まで捕らえるのは難しいと。
「つまり、言い逃れのできない状況にもっていきたいわけね」
「はい。わたしもどちらかと言えば、レオナルドさん同様に戦う方を得意としていますので、変化する状況に臨機応変に対応できる、アリアさんの頭脳を当てにしたいのです」
「それは……えらく買われたものね……」
そんなに頭脳明晰だったかしらと、アリアは面映ゆくなり照れ笑いを浮かべた。ただ、満更ではない。
「ダメだ!!アリアを危険にさらすなんて……」
一方、レオナルドが声を荒げて、改めて拒絶の意思をクリスに伝えているが、アリアは考える。どうすれば、1番得することができるかと。
(あ……)
思考回路の歯車がカチャリとはまったような気がした。
「いいわよ。引き受けても。もちろん、見返りは貰うけど」
「アリア!?」
「ホント!!うれしいわ!!」
アリアは承諾することを告げ、レオナルドは驚き、クリスは男装しているにもかかわらず、女性の口調で喜んだ。
「待て……アリア。よく考えろよ?クリスさんを助けたって、何の得にもならないんだぞ?それなのに、わざわざ危険な橋を……」
「あら、わたしはこの選択が1番得をすると思ったんだけど?」
「1番……得をする?」
レオナルドは、拍子抜けしたようにアリアの言葉を繰り返すように呟いた。
「まあ、要するに……」
アリアは、声を潜めてレオナルドとクリスに思惑を説明した。
「なるほど……アリアさんの言う通り、成功すればそれぐらいの便宜は図れますね。そして、相手はそれを断れない……」
「いつも思うけど、ホント、よくそんなことを考えるなぁ……」
クリスは感心したように、レオナルドは半ば呆れたようにそれぞれ声を漏らした。
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