第77話 女商人は、写真を見せる
「……娘がいきなり暴露したようだね。それでも、会ってくれたことに感謝しますぞ」
目の前に、白髪の初老の男がそう言いながら頭を下げる。なぜ、頭を下げるのか、理解できないアリアとレオナルドは、ポカンとその薄い頭を眺めていた。
「……お父様。それじゃあ、わかりませんよ。ほら、お二人とも驚いていらっしゃるじゃありませんか」
「あっ、それもそうだな」
娘の言葉に、男は笑いながら頭をかくと、改めて、「フランシスコ・カルボネラです」と名乗った。その姿を見て、レオナルドもアリアも名を名乗り、挨拶をする。
「レオナルド・ブランシャールです……」
「アリア・ハンベルクです。お会いできて光栄です」
まだ機嫌が直らないのか、ムスッとした態度で名乗ったレオナルドに対して、アリアは礼儀正しく挨拶を交わした。
「ほう……君が、クリス君が言っていた婚約者の方か。なんでも、ルクレティア出身だとか」
「はい。ですので、会頭のお名前は以前からお聞きしておりまして……正直、お会いできるとは思っていませんでした……」
大商人フランシスコ・カルボネラの名は、ルクレティアでも知られているほど有名だ。そんな有名人に会うのに……。今更ながら、自分の身なりが気になるアリアであった。
「それで、俺の親父とはどういう関係で?」
レオナルドがいきなり話を切り出す。すると、フランシスコは1枚の小さな紙を手帳から抜き出してテーブルの上に置いた。
「これは……写真、ですか?」
およそ人が描いた絵とは思えない現実味のある3人の姿が紙には描かれている。レオナルドは不思議そうな顔をしていたが、アリアはそう言った。
「よく知っているね」
フランシスコは少し驚いた顔をした。写真を作り出すカメラはおよそ30年前に発明されたものだが、貴重な物であり、今でも所持しているのは富裕層でもごく一握りの者に限られている。ゆえに、大半の人間がその存在すら知らないのだが……。
「ええ。実はわたしも実の父の『写真』を持っているので……」
そう言って、アリアは魔法カバンから1枚の写真を取り出して見せる。そこには、若い男女の姿が映し出されていた。
「へぇ……これがお義父さんとお義母さんか……」
「若い頃のよ。それに、父には一度も会ったことはないから、今、どうしているかわからないけどね」
アリアは苦笑いを浮かべた。母が言うには、長く交際していたが、事情があって妊娠したことを伝えずに別れたという。
しかし、フランシスコはなぜか唖然とした表情を浮かべて固まっていた。そのことに気づいて、アリアは思わず声をかけた。
「どうかしましたか?」
「あっ……いや。お父様は優しそうな方だなと。それと、どこかアリアさんと似ているというか……」
「?」
歯切れの悪い回答に、アリアは首を傾げた。しかし、それ以上の追及はせず、写真はそのままカバンに戻す。
(これは……あとでクリスに相談しなければ……)
フランシスコがそう思っているとは思わずに。
「……で、俺の親父との関係は?教えてくれるんですよね」
話がそれたことを思い出して、レオナルドは再びフランシスコに訊ねた。
「ああ、そうだったね。もちろんだとも」
話題が変わったことにフランシスコは少しホッとしながらも、もう一度写真を見せながら語った。
「この写真の左に写っているのは儂で、真ん中とその右に写っているのが……君のお母さんとお父さんだ」
「えっ!?」
レオナルドは、フランシスコからその写真を受け取り、まじまじと見る。初めてみる父母の顔。気の強そうな若い女性と、学者のような雰囲気を醸し出している男性がそこにはいた。
「レオナルド君。君はお父様と儂の関係を尋ねたね?」
「はい」
写真から目を離して、レオナルドは頷いた。フランシスコは、一つ息を吐き、少し遠くを見つめるようにして言った。
「わたしと君のお父さん……大賢者様は、このポトスで知り合った友人だったが、それ以上に、このレベッカを救ってくれた大恩人なのだ」
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