第73話 婚約者たちは、大いに悩む

「レオのお父様か……」


 どんな人なんだろう?優しい人なのかな?それとも怖い人かな?


『おまえのような中古女はうちの息子の嫁には相応しくない!!』


 ……なんて、言われないかな?


「でも、それよりも……」


 ああ、どうしよう。あれからレオが一言も口をきいてくれないんだけど!?


 そりゃね、あんなイケメンに「美しい」だなんて言われて、ときめかなかったか……って言われたら嘘よ。ちょっとはドキっとしたし、「どうしよう、わたしには婚約者がいるのに」……って思ったのは事実よ。


 でも、それは誰だって一緒じゃない!?レオだって、ラモン族のシャーリーさんに言い寄られて鼻を伸ばしていたわけなんだし……。わたしを責める資格ってある?


 ……あるわね。よく考えたら、わたし、あの件で土下座までさせたんだった。


 ああ……どうしよう。わたし、きっと捨てられちゃうんだわ!!


『この船に乗れば、ルクレティアだ。もう二度と顔を見たくないから、俺が後ろを向いている間に船に乗れよ。さようなら、浮気女』


 ……とか、言われちゃうんだわ、きっと。


 すると、やっぱり土下座はしないといけないのかしら?


「ううん!わたしは悪くない。勝手にレオが誤解してるんだから、謝る必要は一切ないわ」


 強気を保とうと、声に出してみたけど、やっぱり駄目ね。口調がすでに弱気。はあ、どうしよう……。あれ、天井が……。





「おい、アリア!いつまで風呂に入ってるんだ!!」


 意を決して言ってみる。勝手にヤキモチ妬いて、呆れられているかもしれない。あれから時間が経っているにもかかわらず、一言も話してくれない。きっと怒っているのだろう。


「わたしの恩人になんて態度を取ったのよ!!もう許せない。婚約破棄よ!!わたし、あっちに乗り換えるから。さ・よ・う・な・ら!!」


 ……なんて言われた日には、きっと立ち直れない。八つ当たりで、このポトスを殲滅することだって厭わないだろう。


「それにしても、遅いな。もしかして、お風呂の中で待ってるとか?」


 確かに、それなら一発で仲直りできるはず。そうか、そうだったんだ。


「よし!!俺も男だ。いくぞ、アリア!!」


 そう言って、浴室の扉を開けると、アリアが裸で土下座していた。


「ちょ…ちょっと……。アリア、何してんの?」


 確かに、今日のアレには思わないわけではなかったけど、土下座までしなくても……。


「あれ?」


 しかし、何かがおかしい。力が抜けているような……。


「アリア?」


 呼びかけてみるが、反応がない。ゆえに、肩を揺さぶってみる。すると、ぐにゃっとなって崩れた。


「アリア!?ちょっと、しっかりしろよ!!」


 頬を叩いてみるも、全然反応がない。


「とりあえずは……」


 濡れたままのアリアを抱きかかえてベッドに連れて行き、そのまま寝かせる。もちろん、素っ裸のままだから、色々と見える。だが、そんなことを言っている余裕はない。のぼせて、脱水症状まで起こしているようだ。すかさず、回復魔法を唱える。


「ふう……。これで、一安心かな」


 顔色はよくなり、健やかな寝息を立てて眠っている。その様子を見て、ホッとするも、改めてアリアの生まれたままの姿がそこにあることに気づき、よからぬ思いが頭の中を駆け巡る。


▶(どうせ、今晩、一気にいくつもりだったんだろ?いいじゃん。ヤレよ)


 (だめだよ。眠っている女性に手を出すのは犯罪だよ……)


 自分の心の中の悪魔と天使が交互にそう提案してくる。


(どうしよう……俺……)


 二つの選択肢の中をうろうろと迷いながら、結局、朝まで一睡もできず、悶々と過ごすのだった。

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