第71話 遊び人は、イケメン警報を発令する

「おい!!そっちはどうだった!?」


「いませんでした!!通りがかった人たちにも聞いたのですが、だれも見た人はおらず……」


「クソっ!!」


 レオナルドは、思わず石壁を殴った。魔力を込めていなかったので、壊れることはなかったが……


「レオナルドさん!!血が……」


 拳から流れる血を見て、シーロが声を上げる。しかし、そんなことはどうでもよかった。すでにいなくなってから1時間近くが経っている。探知魔法を使ってみたが、人が多すぎてアリアの魔力が上手く探知できなかった。


(あのとき、値段にビビって逃げなければよかった……)


 今更後悔しても仕方がないことはわかっているが……それでも、さっきから何度も何度も頭をよぎる。このショーウィンドウを見てから10分足らずの間に見失ったのだ。


「買ってやる。……買ってやるから、戻ってきてくれ……アリア」


 レオナルドは、力なく呟いた。


「ホントに?それ買ってくれるの?」


「へっ!?」


 振り返ると、そこにはアリアが立っていた。一瞬何が起こったのかわからなかったが、レオナルドは取り合えず抱きしめた。


「ちょ…ちょっと……。レオ……人が見てるわよ……」


「かまうものか!!無事でよかった!!本当によかった!!」


「レオ……」


 泣きじゃくるレオナルドの背中をさすりながら、アリアの瞳からも涙がこぼれた。


「あー。感動的な再会も果たしたようなので、僕はそろそろ……」


 目の前で繰り広げられるラブシーンにあてられたのか、クリスがそう告げて去ろうとしたが、アリアがそれを押し止めた。


「レオ。この方……クリスさんがわたしを助けてくれたの。折角だから、お礼に食事を御馳走したいんだけど、ダメかな?」


 アリアにそう言われて、レオナルドは見る。それはもうとても美形な男だ。反射的に、何かよくない警報のようなものが頭の中で鳴り響いているような気がした。


「えぇ……と、アリア。どうやら、クリスさんは忙しいようだし、ほら、オランジバークの他の連中も待たしているわけだし……」


(オランジバーク?)


 クリスの心の中で、その単語が反応した。


「レオナルドさん。アリアさんを救った恩人ですから、我々のことは気になさらなくてもいいですよ。あとのことは、このシーロにお任せください」


「ば……ばか!!シーロ……おまえは……」


(レオナルド?昨夜会ったカルボネラ会頭との話の中で出た師匠の息子の名前も確か……)


 クリスは、この目の前の男に興味を抱いた。


(そういえば……似てるぞ。師匠の顔を少し若くすれば……ふむふむ)


「レオ……。もしかして、あなたは反対なの?わたしの恩人なのよ?その辺、わかってるのかしら?」


 アリアに詰め寄られて、レオナルドは言い淀む。


「で……でも、クリスさんは迷惑そうにしてるし……」


「いいですよ。ご迷惑じゃなければ、わたしの方は」


 クリスは、アリアの提案を受け入れることを表明した。すると、アリアの顔がぱっと華やいだ。


「ホントですかぁ!!レオ。そういうわけだから、いいわよね。行くわよ」


 レオナルドの返事も聞かず、アリアはどこかいいお店はないかしらとクリスに相談を始めるのだった。

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