第62話 王様は、断罪する

 ジャラール王国の首都ダレルパレス——。


 『王宮』と呼ばれるテントで、この国の王子であるラウスは、宰相に就任したレグラと、大将軍に就任したテネスを筆頭にした重臣たちの出迎えを受けて、玉座に座った。


「新国王陛下、万歳!!」


 その瞬間、レグラが音頭を取ると、他の者も遅れじと「万歳!!万歳!!」と連呼した。


 それに対しラウスは右手を上げてこれに応じると、国王としての最初の命を下した。


 パンパン、と二度手を叩くと、外から武装した兵士が乱入し、あっという間にレグラとテネスを取り押さえたのだ。


「な……なにをするか!!」


「陛下!!これはいったい!?」


 恩を仇で返すのか、と言わんばかりに、ラウスを睨みつける二人。しかし、ラウスは動じることなく、口を開いた。


「フレッツ。こやつらに、その罪を告げてやれ」


「御意」


 指名を受けたフレッツは、臆することなく淡々と二人がダネルを弑逆したことを証言した。


「この裏切り者が……。取り立ててやった恩を忘れおって……」


 かつてラウスを売ったフレッツの度胸を買い、腹心として迎え入れていたレグラが悔しそうに呪詛を吐く。彼は、レグラが宰相に就任するに伴い、官房長官に取りたてられていたのだ。それなのに……。


「閣下。悪事は何れバレるのです。巻き込まれないための自衛手段ってやつですよ。悪く思わないでください」


 少しも悪びれずにそう告げるフレッツ。以前、ラウスの謀反を密告したのも、『自衛手段』だと主張する。それを聞き、ラウスは苦笑いを浮かべるが、特に追及はしなかった。


「陛下。そろそろ……」


 決着が着いたとみて、外務大臣のマホラジャがラウスの前に出て裁可を仰ぐ。レグラとテネスが外れた以上、彼が重臣筆頭なのだ。


「マホラジャ……聞くまでもなかろう。謀反は死罪一択だ。直ちに広場に連れて行き、首を刎ねて城門に晒すのだ」


 一切のためらいもなく、ラウスはそう告げた。


「ま……待て!待ってくれ!!かつて、陛下も謀反を企てたが、追放で済んだじゃないか!!」


「そうだ!!誰のおかげでその玉座に座っていると思ってるんだ!!」


 青ざめた顔で、レグラとテネスが必死に訴えるが、ラウスは相手にせず、兵士に合図を送った。さっさと連れ出すように、と。


「陛下!!お慈悲をぉ!!」


「いやだ!!死にたくない!!助けてくれぇ!!」


 二人はテントから引きづり出される際も、見苦しくわめいていたが、やがてその声は聞こえなくなった。単に遠ざかっただけなのか、それとも首を刎ねられて物理的に静かになっただけなのかはわからないが、最早そのようなことはどうでもよく、ラウスは一つ息を吐いて気持ちを切り替えた。


「さて、マホラジャ」


「はっ!!」


「その方を宰相に任ずる。その上で、尋ねるが……これから我が国は、どちらと手を結べばよいと思うか?」


 どちらとは、東の部族連合か、西のアルカ帝国のことを差している。今回の敗戦により、どちらかと手を組まなければ、遠からずそのどちらかに吸収されるだろう。それほどに、失った損害は甚大なのだ。


 それらのことをすべて理解したうえで、マホラジャは返答した。私見でよろしければ、と前置きしたうえで……


「わたしは東の部族連合と組まれるのがよろしいのではないかと思います」


 マホラジャは臆することなく意見を述べた。


 アルカ帝国は、すでに斜陽のときを迎えつつある。何度か訪問したが、役人の腐敗は目に余るものがあり、地方では貧困にあえぐ人々の姿もよく見かける。ゆえに、未来を託す相手には相応しくないと考えて。


 すると、ラウスは頷いて見せた。どうやら同意見のようだ。


「では、その交渉をお願いする。【赤色魔力の水晶】の輸出も許可するので、まとめてもらいたい」


「御意」


 マホラジャは恭しく一礼し、命令を拝受したのだった。

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