第61話 女商人は、不祥事を隠ぺいする

 洞窟の中にある会議室で開かれた幹部会。


 アリアは何食わぬ顔で、オレンジバークが盗賊によって焼かれて廃墟となっていること、盗賊たちはすでに奪う物を奪って撤退したことを、偵察に向かったマルスからの報告という形で告げた。


「なんということだ……」


「しかし、この場合やむを得なかったのではないか」


「それにしても、盗賊があっさり撤退したとは……」


「死人が出なかったのだから、よかったと思うべきなんだが……なんとも……」


 喧々諤々。呟きに等しいコメントがいくつか上がった。アリアはしばらくその様子をただ眺め、パンパンと手を二度叩いた。


「みんな、言いたいことはあるだろうし、悔しい気持ちもわかるけど……今、必要なのは終わったことをくよくよ考えることではないんじゃないの?」


「それはそうですが……」


「今、レオにお願いしてネポムク族で余っている居住用テントを回してもらえないか交渉してもらってるわ。とにかく、今、最優先に考えることは、ここにいる5千人の村人の生活をどうするかよ。当座の担当割を決めたから、確認して頂戴」


 そう言って、アリアは机の上に1枚の紙を広げた。そこには、ネポムク族以外の部族にテントの貸し出しや物資の支援を要請に向かう者、この避難地における生活支援を行うために必要な役割の担当者名が書かれていた。


「不服がある人は、今、この場で言って頂戴。話の内容によっては変更を考えるから。なければ、すぐに任務に取り掛かって。時間がもったいないから」





「ふぅ……うまくごまかせたかな……」


 会議室には、他に残っている者はいない。それを確認して、アリアは心の内を吐き出した。


(もっとも、本当のことを知っても、誰もレオのことを非難できるとは思えないんだけどね)


 ヤンから届いた手紙には、アッポリ族救援の際にレオナルドがジャラール兵を少なくとも2千以上、短時間の間に一方的に殺したと書かれていた。オランジバークの様子を確認しに行ってもらったマルスからも、焼け野原となった村には、数百に及ぶ盗賊の死体が串刺しになった状態で放置されていたという報告もあった。


 いずれも、たった一人でそれを成し遂げたのだ。


 そんな、恐ろしい人に非難の声を向けることができる人間などどれほどいるのだろう?


(でも……それじゃ、悲しすぎる……)


 真実を知られれば、レオナルドは皆から恐れられる。表向きはそうでなくても、心の中ではきっとそうなる。みんなのことを思って力を使ったということは理解されても、以降は腫れ物に触るような扱いをされるだろう。


 だから、アリアは今回の一件は隠すことにしたのだ。レオナルドの居場所を守るために。もちろん、彼には人前で不用意に強力な魔法を行使するのは控えるように念押ししたうえで。


(でも、いつまでも隠しきることはできないだろうな……)


 これから先も、様々な危機がこの村を襲うだろう。そのとき、レオナルドは必ず力を使うはずだ。そうなったとき、果たして……。


 机の上には、焼け野原となったオランジバークの再建案の資料が置かれている。いろいろな案はあるが、いずれ村はより良い形で再建されるだろう。


 だが、村の再建がなった時、アリアは村長の座を降りようと思っている。


 レオナルドが居場所を失ったとき、共に寄り添い、村を去るという選択を取れるようにするために。

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