第60話 勇者は、仲間集めに苦労する

「ただいま……」


「あっ!おかえり……って、ジャクソンたちは?」


「……死んだ」


「そう……」


 明らかに落ち込んでいるアベルを見て、ため息をつく。これで何度目だろうか。仲間が死んだという話を聞くのは。


「だいたい、無茶なのよ。この辺りのモンスターは、レベル30はないと苦戦するのに、レベル1の新人さんがまともに戦えるわけないでしょ?」


「だったら、どうしろっていうんだ。高レベルの冒険者に声をかけても相手にされないし、傭兵を雇うほどの金はないんだぞ!?おまけに、おまえは妊娠中だし……」


 だからって、勇ましいだけの素人を半ば騙して仲間にしても……と思う。


「やっぱり、一からやり直そうよ。エデン国に戻ってさ。あの辺りはモンスターもレベルが低いから、初心者でも着実に経験を積めるんだし」


 エデン国——。わたしたちの故郷。そして、旅立ちの場所だ。そこならば、素人を仲間にしても、経験を積ませることで、死んだオスナやマフガフの代わりを育てることができるのだ。


「だけど、それじゃあ、時間がかかりすぎる。俺たちはここまで来るのに5年かかったんだぞ?これから5年、ひよっこに付き合って足踏みしろって言うのか!?」


「どっちにしたって、足踏みしてるでしょ!?それともなに?今と同じ事やっていれば、いつかあのダンジョンクリアできると本気で思ってるの?」


「うっ……それは……」


「できないでしょ?アンタだってそう思ってるわよね。5年経っても10年経っても、今のやり方じゃきっとクリアできない。だったら、戻って……やり直そうよ……」


 悔しいのはわたしも一緒。自然と涙がこぼれる。


 でも、死んだオスナとマフガフの代わりがいない以上、そうするより他にないのだ。


「……わかったよ。カミラの言うとおりにするよ」


 アベルはようやく折れてくれた。


 コンコン……


「だれかしら?」


 そう思って、玄関の扉を開けると、町長さんがそこに立っていた。見ると、後ろには警官が数名待機させた状態で。


「……あの?なにか……」


 嫌な予感がする。とてつもないくらいに。


「勇者どのは御在宅かな?」


「は……はい。いますが……」


 そう答えると、背後にいた警官たちが家の中に乱入してきた。


「えっ!?」


 あまりものことで、反応できずにいると背後から窓が割れる音がした。


「逃がすな!!追え!!」


 警官たちの怒鳴り声が聞こえ、そして、遠ざかっていく。


「アベル?」


 恐る恐る家の中に入ってみた。さっきまでそこに座っていたのに、アベルはいなくなっていた。


「町長さん!!これはどういうことですかっ!?」


 まさか、ハルシオンから指名手配されたのか?そう思って、一人残っていた彼に問い質すと、1枚の紙をポケットから取り出して広げて見せた。そこには、見覚えのある名前が並んでいた。どれもこれも、パーティーに加えては死んでいった者の名だ。


「……これ以上、町の若者をたぶらかされて死地に送られてはかなわんのだよ。だから、出て行ってもらおうと思って来たんだが……」


 どうやら、町長もこんな騒動になるとは思っていなかったようだ。警官を連れてきたのは、仮にも勇者を相手にする以上、暴れられたらかなわないと思ってのことだと説明してくれた。


(でも、アベルはきっとハルシオンの追手と思って逃げたのね……)


 おそらく、もうここには戻ってこないだろう。わたしへの愛情はないとは思わないが、自分の身を危険にさらしてまでは……とは思っていないはずだ。


(はあ……捨てられちゃった。……そういうことね)


 こうなった原因となった女商人のように置き去りにされて、急速に彼への愛情が冷めて行く。お腹の子は堕ろしたりしないけど、これから先、アベルをこの子の父親と認めることはないだろう。


(さようなら、アベル)


 割れた窓ガラスを片付けながら、去っていた方角を見て静かに別れを告げた。

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