第59話 女商人は、式の延期を決断する

「えっ!?盗賊団は倒しちゃったの?」


「……うん。ちょっと頭にきちゃったから、つい……」


「つい……って……」


 そんな簡単に倒せる相手なのか、とアリアは思った。しかし、レオナルドが嘘を言っているとは思えない。だから、信じることにして、みんなに帰還する準備をするように告げなければと思ったが……。


「それは……ちょっと……やめてもらいたいっていうか……」


 レオナルドに止められてしまった。


「はあ?どういうことよ」


 アリアが「意味が分からないんだけど」と説明を求めると、レオナルドは目を泳がせた。


「レ~オ~?」


 何か重大な隠し事をしていると判断して、ギロリと睨みつけると、レオナルドは白状した。


 曰く、「村を焼き払った」と……。


「はぁあ!?」


 アリアは仰天して、大きな声を上げてしまった。


「しっ!!みんなに聞かれたらまずいって……」


「あっ!ごめん……っていうか、なんで私が謝らなければならないのよ!!」


 アリアはそう言いつつも、今度は小声で抗議した。


「それで、レオ……。それは一体どういうことかしら?」


「いや……アリアがいない世界に未練はなかったから……つい……」


「つい!?つい、で村を焼き払ったっていうの?みんなこれからどこに住んだらいいのよ!!」


「いやあ……面目ない……」


「面目ないって……」


 項垂れて反省するレオナルド。その姿を見て、アリアは何も言えなかった。そもそもの原因が自分の軽率な行動にもあると思ったからだ。


「仕方ないわね。……村を焼いたのは、盗賊の仕業ということにしましょう。ただ、そうなると、みんなどこに住んでもらうかよね?」


 この銀鉱山に避難してきた村人はおよそ5千人。ここ数日は天気が良かったから、外で野宿している者もいるが、雨が降れば洞窟の中に避難せざるを得ない。入りきらないとは思えないが、混雑することになるだろう。そのとき、様々な問題が発生するはずだ。


「ひとまず、各部族に声をかけて、余っているテントを借りようかしら?」


「それなら、ヤンの野郎に協力させるよ。ジャラール族が軍事物資としてアッポリ族の村に持ち込んでいたものが大量にあるはずだから、きっと貰えるはずだ」


「アッポリ族の村?それは一体?……まさか、そっちでも暴れたの!?」


「いやあ……ははは……」


「ははは、じゃないでしょ!?」


 後でヤンから話を聞くのが怖くなったアリアであった。


「……でも、これで結婚式は延期だね?」


「え゛……?」


「だって、式を挙げる教会も燃やしちゃったんでしょ?どこで挙げるのよ?」


「ああ!!しまったぁ!!」


 レオナルドは頭を抱えて後悔した。死んでいると思っていたのだから、やけくそになって特に念入りに燃やして、破壊したのだ。無論、そのことはさすがに言えない。


「それに……レオには申し訳ないんだけど、実は、指輪が壊れちゃったの」


「へ?」


「ずっと指にはめていたんだけどね、棺桶から起き上がってみたら、宝石が外れてなくなっちゃってて……。もちろん、探したんだけど……ごめんなさい!!」


 アリアは、頭を下げて謝った。そのとき、レオナルドの中でなにかが引っ掛かった。


「アリア。その指輪、まだ持ってる?」


「ええ。まだ指にはめているわよ」


「ちょっと、見せてくれる?」


「それは……かまわないけど……」


 突然、何を言い出すのかと思いながらも、アリアは言われるままにそれを差し出した。


レオナルドは、【鑑定魔法】で指輪を鑑定した。


『いのちの指輪。効果は、1度だけ装備した者の蘇生を行うこと。【使用済み】』


「はは……ははは……そうか!!そうだったのか!!」


「どうしたの?レオ。突然笑いだして……」


 訝しげに見つめるアリアをよそに、レオナルドはしばらく笑い続けた。


 うれしかった。母の力が大切なアリアの命を守ってくれたという事実を知り、とてもとてもうれしかったのだ。


(母さん。感謝します。ありがとうございました)


 母と初めてつながったことを実感し、レオナルドは心の中で感謝の言葉を捧げるのだった。

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