第57話 大臣は、国王弑逆を企てる
「なんだと!?我が方が大敗を喫しただと!!」
ダレルパレスで留守を守る内大臣レグラは、その衝撃的な知らせに思わず声を上げた。……だが、同時に冷徹に頭を回転させることも忘れなかった。
「テネス将軍は、今どこにいる?」
「将軍なら、この時間は練兵所におられるかと……」
「すぐさま使いを出して、ここに来るように伝えよ。但し、誰にも気づかれないようにということも忘れるな?」
「はっ!承知しました」
傍にいた秘書官に指示を下すと、レグラは壁の隅の壺に丸めて差していた地図を取り出すと、机の上に広げた。
「お呼びでしょうか?」
今日の訓練は激しかったのだろうか。いつもに増して汗だくな状態で、テネスがテントの中に入ってきた。
「実は、アッポリ族の村に向かっていた我が軍は大敗を喫した模様で、陛下もわずかな供周りと共にこちらに向かっているとの知らせが入りました」
「なんと……」
テネスにとっても予想外の知らせだったのだろう。言葉を失い唖然としていた。
「それで、将軍にはこの地点……レフネールの森にこれより向かってもらいたいのです」
「なるほど……。この森に不穏分子が潜んでいる心配があるということですな?わかりました。不肖テネス、必ず、陛下を保護し奉り……」
「いや……。そうではない」
「はい?」
まさか否定されるとは思わず、テネスは首を傾げた。すると、レグラは立ち上がり、テネスの耳元でささやいた。
「賊の仕業に見せかけて、陛下を亡き者にせよ」
「レ……レグラ……どの?」
聞き間違えたのかと思って、テネスはレグラを見るが、頷いて肯定された。テネスの顔から血の気という血の気が一気に引いていった。
「な……何を馬鹿なことを言われるか!!」
テネスは立ち上がり、剣の柄に手をかけた。だが、レグラは動じることもなく静かに語り掛けた。
「将軍。もし、陛下が無事に帰ってきたとして、どうなりますかな?これだけの大敗を喫したのです。今までのように、力ずくで皆を従えることなどできないでしょう……」
「それは……」
その通りだとテネスも思った。
「まして、『悪魔』と呼ばれる男を敵に回したのです。兵士たちがその『悪魔』を恐れる限りは、これから先、陛下が今までのような強権でもって従えようとしても、従いますまい。そうなれば……」
「反乱がおこり、我が国は最終的に東の部族連合か、西のアルカ帝国に支配されることになると……」
ただでさえ、先日のラウス王子の追放事件で臣民の間に動揺は広まっているのだ。あり得ない話ではない。
「しかし、陛下を弑して……その後はいかがなさるので?」
テネスが尋ねる。まさか、おまえが簒奪するというわけじゃないよな?という牽制も込めて。
「ラウス王子に戻っていただく」
「ラウス王子?だが……国外に出られて行方が分からないのでは?」
すると、レグラはいともたやすく答えた。
「王子なら、アルカ帝国におられるよ。国境の町に留まられていることはすでに確認済みだ」
「そうか……」
なんという手際がいいことで、とテネスは思った。だが、ここまで考えているのなら、もう言うことはなかった。
「……それで、返事は?」
改めてレグラに問われ、テネスは賛同することを表明した。
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