第55話 遊び人は、友から諭される
ヤンにかけられた言葉。それ自体に何かを思ったわけではなかった。
だが、こうして自分のことを心配してくれている人の顔を見て、レオナルドは凍結していた自分の感情に血の気が通い始めたような気がした。瞳からこぼれる涙は、その表れだった。
「……アリアが死んだ」
馬乗りになって見下ろすヤンに、レオナルドは告げた。
「えっ!?」
ヤンは驚き、口をパクパクさせているが、言葉は出てこない。
「いつまで、乗ってるんだ」
そう言って、レオナルドはヤンを突き飛ばす。ヤンは仰向けに倒れそうになるが、辛うじて手で支えた。その隙に、レオナルドは起き上がる。そして、手を差し出した。
「落ち着いたか?」
伸ばした手を取ったヤンが尋ねると、レオナルドは「ああ」と答えて、彼を引っ張り上げた。
「それで、どういうことなんだ?アリアさんが死んだって……」
衣服についた砂埃を払いながら問いかけたヤンに、レオナルドは事の経緯を説明する。
「つまり、アリアさんはおまえの弟たちを助けようとして……」
「ああ。……だけど、そもそも俺が村を離れなかったら、こんなことにはならなかったはずなんだ。それなのに……俺が欲をかいたばかりに……」
レオナルドは項垂れた。ヤンは、そんなレオナルドの肩を強く叩いた。
「そうじゃないだろ!!アリアさんが命を落としたのはおまえのせいなんかじゃない!!うぬぼれるんな、馬鹿野郎が!!」
「ヤン……」
「……アリアさんは、強い人だ。決して自分の運命を人に委ねたりなんかしない。彼女が死んだのならば、それは彼女の意志だ。それを婚約者のおまえが穢してどうするんだ!?しっかりしろよ……!!」
ヤンは、再びレオナルドの肩を叩いた。涙を流しながら。
「ありがとう」
レオナルドの口から、その言葉が自然にこぼれた。ヤンは流れる涙を袖口で拭い、「いいってことよ」と言って笑った。
「それじゃあ、帰るわ。いろいろ、ありがとな。いずれまた」
「ああ。いずれまたな」
ヤンに見送られながら、レオナルドは、【転移魔法】を発動させて、アリアが眠る銀鉱山へ転移した。
「レオナルドさん!?一体、今までどこに?」
マルスがこちらを見て大きな声を上げる。顔を合わし辛い。婚約者が死んだというのに、亡骸をほっぽらかして一人好き勝手にやってきたのだ。非難される、そう思った。
「アリアさん!!レオナルドさんが帰ってきましたよ!!」
しかし、どういうわけか、マルスは反対方向に向かって叫んだ。
レオナルドは訝しんだ。アリアは死んだのに、何をやっているんだと。それとも、マルスは悲しみのあまり壊れてしまったのだろうか?
「おい、マルス。……なに……を……」
その姿に、レオナルドは目を丸くした。
「どうして……」
レオナルドは、駆け寄る。そして、抱きしめる。
「痛い。痛いってば……」
「あ……ごめん」
抗議の声に、レオナルドは力を緩める。温かい。一瞬、アンデッド化したのではないかと疑ったが、生きている。夢じゃないだろうかと思い、アリアの胸を鷲摑みする。
バチン!!
「会って早々なにするのよ!!」
頬を思いっきり叩かれた。痛かった。どうやら、夢じゃないようだ。
「ホントにもう……なにやってるんだか」
そう言ってアリアは呆れたように微笑んだ。
だから、レオナルドは全力で言ってやった。
「おかえり!!アリア!!」
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