第49話 女商人は、救援に向かう

 二人の兵士はすぐに戻ってきた。だが、その報告は残酷なものだった。


「ダリルとジルドが村に……。なんで?どうしてそんなことになってるのよ!!」


 アリアは真っ青な顔をして叫んだ。


「なんでも、お友達の女の子が亡くなったお父様からもらったぬいぐるみを忘れたと泣いていたらしく……」


「それを取りに戻ったと?周りの大人は誰も止めなかったの!?」


「女の子のお母さんが止めたようですが、『兄さんなら決して見捨てないから』と言って向かわれたとか」


 アリアはため息をついた。そういえば、あの二人はレオナルドを物凄く慕っていたことを思い出す。


「それで……その話はいつの話?」


「30分ほど前と言ってましたが」


 30分前。それは、アリアたちが村を出た時間とほぼ同じ。


(だけど、すれ違わなかった……。つまり、別の道を通っている?)


 アリアはこの付近の地図をカバンから取り出して広げた。避難に使ったのはアリアが村長になってから整備した街道であるが、地図にはもう一本、街道の途中から村の東口につながる道が示されていた。


(この道を使ったのか……)


 それだけわかれば十分と、アリアは兵士がさっきまで乗っていた馬に騎乗した。


「アリアさん!!いけません」


 兵士たちは押し止めようとするが……


「これはうちの家族の問題だから、みんなを巻き込むわけにはいかないわ。あなたたちは引き続き避難の誘導と警護を。それと、これ預けるわ」


 アリアはそう言って、馬上から『魔法カバン』を投げ渡した。


「その中には、みんなの荷物が入っているから、くれぐれもなくさないようにね。……あと、お義母様には、わたしが必ず連れて帰るから安心してと伝えてくれる?」


 そう一方的に告げて、馬を駆けだした。


「「ちょ……ちょっと!!アリアさん!?」」


 兵士たちは叫ぶが、アリアは止まらなかった。


(子供の足だから、まだ村にはついていないはず)


 街道の途中で交差する道を見つけて、そこを左に折れて進む。林の中に入り、左右には木々が覆い茂っているが、ここを抜ければ、海岸沿いを走ることになる。


(できたら、林の中で捕捉できれば……)


 全速力で馬を駆ける中、アリアは願った。そこまでに見つけることができれば問題ないが、海岸線に出てしまえば、近づいてくる姿が敵に丸見えになってしまう。そのとき、村に盗賊がいれば、まずいことになる。


 だが、無情にも二人は林の中では捕まらなかった。


「しかたない!!」


 アリアは林の出口から海岸沿いの道に馬を走らせた。遠くに村が見えた。いくつもの煙も上がっている。すでに、盗賊たちは村に入ったようだった。


(ダリル!ジルド!)


 そんな様子の村の手前で、立ち尽くしている二つの小さな影が見えた。アリアは二人の下に駆け寄り、馬を止めると手を伸ばした。


「二人とも、早く乗って!!」


「アリアお姉さん……あの、ぼくたちは……」


 兄であるダリルが言い辛そうにするも、手を取ろうとはしない。おそらくは、まだぬいぐるみを諦めていないのだろう。だが……


「いいから!黙って乗って!!村長の命令が聞けないの!?」


 今は男のメンツよりも命が大事なのだ。その迫力に圧されて、ダリルが恐る恐る手を伸ばすと、アリアは掴み一気に引き上げた。そして、ジルドも同様に。


「さあ、逃げるわよ」


 二人を前に乗せて、馬を駆けだそうとしたアリア。そのとき、背中に激しい痛みが走った。


「アリアお姉さん!!」


 馬からゆっくり崩れ落ち、下に落下するアリア。ダリルが慌てて降りようとするが……


「行って!!早く!!」


 アリアは持っていた鞭を思いっきり振り、馬のお尻を叩いた。


ヒヒーン!!


「うわっ!!」


 馬が暴れて、前へ駆け出していく。ダリルは手綱を制御しようとしたが、振り落とされないようにするのが精いっぱいでコントロールできない。そのまま、林の中へと進んでいく。


「ははは……帰ったら、あの子たちに馬術を教えないと……うっ!!」


 ゴホ!!


 口から血があふれ出る。白いシャツが血に染まり、思った。……もう助からないと。

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