第47話 女商人は、想定外に青ざめる

「えっ!?レージーさんが刺された?」


 ラモン族から届いた知らせにアリアは驚きの声を上げた。しかも、刺したのは娘のシャーリー。あの夜、レオナルドに懸想していた女だ。しかも、刺した理由というのが、「レオナルドと結婚できなかったのは、レージーが会うのを禁止したからだ」ということらしい。


「レージーさんの傷が浅かったのが不幸中の幸いってところよね。じゃないと、シャーリーさんを死刑にしないといけないわけで……」


 今はまだ処罰は決まっていないが、おそらくは多少の恩情はかけられることになるだろう。レオナルドを譲り渡すことなどできないが、それでもアリアはシャーリーが幸せになることを願った。


「それにしても、ゾエフ族の弟も族長である兄に対して反乱を起こしたというし、これってジャラール族の陰謀とみるべきかしら?……って、マルス?さっきから何見てるの?」


「えっ!?いや、特には……ははは……」


 あきらかに挙動不審な態度。アリアは考える。マルスはどこを見ていたか。その視線は自分の胸元を見ていたことに気づく。


(そういえば……今日は胸元が広く開いたシャツを着てるんだった!)


 ソファーに腰を掛けた状態で、ローテーブルに置かれていた書類をやや前かがみで見ていたのだ。少し覗き込めば、下着を見ることは左程難しいことではない。


「マルス……あんた、レオに言いつけるわよ?」


 バレたと悟ったマルスが土下座した。





 マルスが帰った後、アリアは一人、情報を整理する。


(レオは銀鉱山。マリアーノさんは今朝出発したから昼過ぎには合流を果たすだろうな。そのまま西へ向かって、アッポリ族の村へ。秘密の道を使うって言ってたっけ?)


 地図を見ながら思いを馳せる。


(でも、ゾエフ族の支配領域を通るのよね?反乱がおきている状態で通れるのかしら?)


 今回の話は、ネポムク族もそうだが、ゾエフ族にも話してはいない。ゆえに、場合によってはゾエフ族の族長、反乱した弟双方から敵への援軍とみなされて攻撃される可能性があることに気づく。


(それなら、迂回して正規のルートを通るべき?いや、レオにも考えがあるはずだし、状況に応じて必要なら変更もするだろう。余計なことを言っては足を引っ張りかねないわ)


 使いの者を送ろうかと迷ったアリアであったが、そう思い直して取りやめることにした。


(しかし……これで、部族連合軍の結集は難しくなったわ。あとの部族は交易の利によってつながってるっていう関係だし。きっと、呼びかけても兵は出さない)


 ゾーラ族とメルカゴ族、それにエルド族。アリアはこれらの部族がネポムク族支援に動くことはないとみた。


(そうなると、もう出せる兵はないわね。今、オランジバークに残っている兵は100名余り。これを出せば、反乱がおこったときに対応できないから出すわけにはいかないし……ん?)


 アリアは、そのまま地図を見て、オランジバークの南側に記されている文字を見る。


『盗賊団 2万有余』


(……部族連合軍はあてにできない今、もし、この盗賊団が北上して……この村を襲ったら?)


 その可能性を考えたとき、アリアは青ざめた。


「マルス!!マルスはどこ!?」


 慌てたアリアは執務室から飛び出して、声を上げた。すると、玄関から彼は姿を現した。


「よかった。丁度聞いてほしいことが……」


「すみません!!一大事です!!盗賊団がこの村を目指して北上を開始したようです!!」


 マルスの報告に、アリアは自らの予測が当たったことを知るのだった。

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