第46話 族長は、出陣する

「なんだと!?ジャラールの奴らがまた言いがかりをつけてきただと?」


 族長として政務を行うテントの中で、ヤンは不快感を隠すことなく吐き捨てた。


「はい。いかがいたしましょうか」


「斬れっ!!」


 淡々と告げるジェロニモにヤンは一言そう返したが……


「……そういうわけにはいかないでしょう。お通ししますよ」


 ……と、ジェロニモは相手にすることなく、目の前から下がっていった。


 イラつく思いを何とか収めようと、ヤンは一度、二度、深呼吸をした。すると、ジェロニモに連れられて、そのイヤな男が現れた。


「ジャラール王国の外務大臣マホラジャが、国王陛下の名代として、ネポムク族の族長にご挨拶を申し上げます」


(ケッ……なにが『王国』だ!なにが『国王』だ!俺たちと同じテント暮らしのくせに!!)


 内心では、今すぐ剣の錆にしてやりたいと思いながらも、族長として表面上は穏やかに応対する。


「よくぞこられたな、マホラジャ殿。それで、そちらの『酋長殿』はお元気かな?」


 マホラジャの眉毛がピクリと動いた。言ってやったと、ヤンの心は少し晴れた。


 しかし、このマホラジャという男も伊達に『外務大臣』と名乗ってはいない。意味のない社交的な会話はさっさと打ち切り、本題を切り出した。


「族長殿に、我が国王陛下のお言葉をお伝えする。


 アッポリ族の村に住むわが臣民について、多数の情報筋より迫害を受けているとの報告があり、日々心を痛めている。


 元々アッポリ族は、ジャラール族と祖を同じくする兄弟部族であり、本来であれば対立する謂れはないはずなのに、ネポムク族の不当な支配によってそれが歪められている。よって、ネポムク族の者はすみやかに退去し、独立を認めよ。さもなくば……」


「……武力をもって、これを排除するか。面白い。やれるものならやってみるがよい」


 ヤンは臆することなく、これに応じた。すると、マホラジャは不敵な笑みを浮かべた。


「何がおかしい?」


「……いえ、後悔なさいますぞ、と申し上げておきましょう」


 その言葉に、ヤンは一抹の不安を覚えたが、もうこれ以上この男に時間を割きたくない思いの方が強く、ジェロニモに合図を送り、この男を退室させるように促した。


 マホラジャは、一礼して大人しく下がっていったが、ヤンはやはり何か不気味さを覚えて、戻ってきたジェロニモにアッポリ族の居住地に関する防衛体制を尋ねた。


 しかし……。


「族長!!族長!!大変です!!」


 マホラジャが去ってから1時間後、一人の兵士がテントに慌てて駆け込んできた。


「なんだ!騒々しい!!」


 ジェロニモが一喝したが、兵士は構わず事態を告げた。


「アッポリ族より、救援要請の狼煙が上がっています!!」


 ヤンは、すぐさま立ち上がり、テントの外に出た。そこには、このテントの警護をしていた兵士が狼煙を見て呆然としていた。


「何をしておるか!!すぐに動けるものを集めよ!!出るぞ!!」


「あっ……はっ!!」


 やるべきことを思い出して、兵士たちは大声で緊急招集を告げながら村中を回る。10分ほどしてヤンが鎧を装着し終えた頃には、100名足らずではあるが、兵士は集まっていた。


「ジンとカイは、すぐに近くのナール族とゲイン族の元に行き、兵をアッポリ族の村に向かわせるように伝えよ。また、その際、他の部族への伝令をお願いすることを忘れるなよ?」


「「はっ!承知しました」」


 二人はそのまま門の方に駆けて行った。


「ルーは、オランジバークに。アリアさんに話して、部族長会議の招集をお願いしてくれ。場合によっては、援軍をお願いするということも忘れずに!」


「承知!!」


「では、みなの者!!出るぞ!!」


 そう言って、ヤンは兵たちと共に馬を駆けた。

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