第45話 女商人は、偽装工作に加担する
「じゃあ、行ってくるね」
そう告げたレオナルドに、アリアはやさしくキスを交わした。彼はこれから反乱を起こしたふりをするため、銀鉱山に向かうのである。
以前、レオナルドに接触したというケトンという参謀から届いた手紙には、今日11月25日に反乱を起こすようにと記されていた。このあと、わたしに味方する兵によってこの村長屋敷から叩き出されて、銀鉱山に敗走する手はずとなっている。だが……
「レオ……」
言い知れぬ不安が胸を締め付けた。不安そうにしているアリアに気づいたのか、レオナルドはアリアを抱きしめていった。
「心配するな。俺が強いのは知ってるだろ?」
ニカっと笑うレオナルド。その言い方はずるいと思ったが、アリアの中に芽生えていた不安を溶かしていく。
「いってらっしゃい」
もう大丈夫だ。気を取り直してアリアも笑顔で、叩き出される体で出て行く彼を見送った。
「では、予定通りに、我らも明朝出発します」
レオナルドを叩き出した役を遂行したマリアーノが、レオナルドが無事村から落ちて行ったことと共にそう告げた。
「予定では、銀鉱山方面に向かった後、打って出てきたレオと合流してそのまま西に向かうのね?」
西にはネポムク族の支配地が広がっており、そのさらに西奥に戦場となることが予想されているアッポリ族の集落がある。なお、ヤンにはこのことは伝えていない。敵を騙すにはまず味方から……だそうだ。
「奇襲……うまく行くといいわね」
アリアがそう言うと、マリアーノは頷いた。レオから聞いた話だと、今日、ここオランジバークで騒動が発生するのだから、明日か、遅くても明後日にはジャラール族の侵攻が始まるという。
「ところで……我々が出発した後の話ですが、もし、本当に反乱が起こった場合は、マルスを頼ってください。彼には言い含めておりますので」
これも事前に決めていたことだが、アリアは頷いた。レオナルドへの接触がフェイクで、他に本命がいた場合に備えた対応だ。
「でも、怪しい人はいなかったのでしょ?」
「……ですが、備えておいても損はないかと」
それもそうね、とアリアは返した。
「では、これにて失礼します」
マリアーノは執務室を退室した。一人となった部屋で、アリアはおもむろに立ち上がると窓の外を見る。先程までこの屋敷の前に集まっていた村人たちもすでに解散し、いつもの風景が広がっていた。
(本当に、これで大丈夫なのだろうか……)
不意に言い知れぬ不安がまた胸を締め付ける。それは予感めいたものなのかもしれないと思い、考える。見落としていることはないかと。だが……。
「アリアさん。マチルダ夫人がお見えになられていますが」
秘書を務めるエリナの声に、思考を中断させることになった。
「お通ししてください」
アリアがそういうと、箱を持った数名の男たちを引き連れたマチルダが姿を現した。
「お義母様。これは……」
「あなたの花嫁衣裳よ!ホント、綺麗に仕上がってるから、手に取ってみて」
今日も着せ替え人形にされるのだろうな、と思いながら、アリアは平和なこの時を満喫するのだった。
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