第44話 王子様は、追放される

 深夜——。


 ジャラールの首都ダレルパレスから少し離れた場所にある洞窟に、一人の男が松明を片手に入っていく。しばらくすると、広場といっていい空間があり、その先に3つの道がある場所に辿り着いた。


「山」


 男がそういうと、左端の道から別の男が出てきた。その男は「こっちだ」と言って、元来た道に足を向ける。


「よく来たな、フレッツ。さあ、そこに座ってくれ」


 そう言った中央に座る男は、この国の王太子であるラウス王子だ。フレッツは恭しく一礼して、指示された席に座った。


「では、始めるとしよう」


 ラウス王子は、横に座るジェンに促し、概要を説明させる。それは、『国王ダネルの追放計画』だった。


「今、我が国に戦争をする力はない。むしろ、部族連合と交流を密にし、国を豊かにすることこそが、我が国がとるべき正しい道だと信じている」


 ラウス王子は、迷いのない目で最後にそう締めくくった。


(青いな……)


 固めの杯が配られ、器に酒が注がれる中、フレッツは思った。世の中、そんな綺麗ごとばかりではないのだ。


 このフレッツが王太子の謀反計画を国王ダネルに注進したのは、その翌朝の事だった。





「ラウス!!ワシは……そなたを信じておった。他の者が、おまえを疑ってもワシは……。なのに、おまえは……」


 王宮前の広場で、一味の者と共に縛られて座る息子の姿を見て、ダネルは狼狽した。反戦派や平等主義者らが反乱を企てていることは掴んでいたが、その首謀者に後継者である息子が名を連ねているとは思っていなかったからだ。


「父上!!目をお覚まし下さい!!今は戦争をするときではないのです。民を飢えさせて何の国王ですか!?」


 父親の気持ちも知らず、ラウスは叫んだ。ダネルは一瞬心が揺らいだが、臣下の者が見ていることを思い出し、怒鳴りつけた。


「だまれ!!おまえは大義をなんと心得るか!!ネポムク族は我らの宿敵。必ず滅ぼさねばならぬのだ。おまえもそれをわからぬわけではあるまいが!!」


「しかし、このままだと民が飢えて……」


「ならば、奪えばよいのだ。食べ物も、財宝も、女も。そうすれば、おまえの悩みは解決する。違うか!!」


「父上……」


 ダネルの言葉に、ラウスは残念そうに見つめ、項垂れた。そして、最早言っても無駄だということを理解した。


「陛下。そろそろ……」


 決着が着いたとみて、内大臣のレグラがダネルの前に出て裁可を仰ぐ。本来ならば、謀反を企んだ者は死罪である。今までもそうしてきた。首都の門に並べている首はそいつらの物だ。だが……。


 さすがのダネルも我が子を殺すことはためらった。


「ラウス……。そんなにこの国が嫌なら出て行けばよい。他の者もだ。全員、国外追放処分とする」


 思いもよらぬ判決に、ラウスも他の者も驚く。


「陛下……それでは、将来に禍根が残りますぞ」


「だまれ、レグラ。余の決定に意見する気か?」


 決心が揺るぎそうにない様子を見て、レグラはそれ以上のことは言わなかった。


「父上……」


「もう父でも子でもない。これが最後の恩情だと思って、何処かの土地で静かに暮らすがよい」


 ダネルはそう告げると、足早にその場を後にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る