第42話 盗賊は、下品に笑う
オランジバークより南へ約70km。ポトスがある大陸南西部とを結ぶ街道を見下ろす小高い丘の上に、巨大盗賊団の本拠地が置かれていた。
この盗賊団を率いるのは、ウィリアム・マクブルーム。元々、ポトスで名のある傭兵団の団長を務めていたが、女子供であっても平気で手にかける残忍な性格が災いし、副団長の裏切りによって追われた男である。
ゆえに、彼のポトスへの敵愾心は、異常と言っていいほどに強い物だった。
ウィリアムは、共に傭兵団を追放された団員たちと共に、この地で盗賊団を結成すると、ポトスと各地を結ぶ街道を通行する者たちを容赦なく殺して回った。無論、ポトス側も幾度も討伐軍を送ったが、そのすべてを殲滅し大地を血で染めた。
恐れおののいたポトスが近年討伐軍の派遣を見送っており、今では完全に街道を封鎖することに成功している。
また、そんな彼らを見て分け前に預かろうと周辺の山賊、盗賊、流民が次々と手下に加わるようになり、今では末端の構成員まで合わせると、その総数は2万余を超える大勢力となっている。
そんな彼の元に、ジャラール族の族長から手紙が届いたのは、11月も1週間ほど過ぎたころのことだった。
「団長。ダネルの野郎はなんと?」
手紙を広げて中身を読むウィリアムに、副官を務めるリッツが横から尋ねた。
「今月下旬に、オランジバークを攻めねぇか……だとよ」
ウィリアムは、手紙をそのままリッツに回してそう言った。
「オランジバーク?あの開拓村のことで?」
リッツは、手紙を広げて読んでみると、その開拓村は今では豊かになっており、物資が溢れていると書かれてあった。
「……村で奪ったモノは、物だろうが人だろうが、全部俺たちの物にしていいとあるし、そのうえ、先払いで食料も支援してくれるとは……ケチなダネルにしては良い条件じゃあございませんか。やりましょうぜ!」
リッツは、手紙を畳みながらそう言った。
「リッツ……。やはり、この冬はこのままだと難しいか……」
「ああ。最近、街道を誰も通らなくなっちまったんで、商売あがったりだわ。近隣の村々からの『みかじめ料』をきつく取り立ててはおりやすが、足り苦しいようで……」
ウィリアムは、ふむぅと息を吐いた。
「なんだ?気が進まねぇのか?しかし……このままじゃあ……」
「わかっている。ただ……なんとなく、嫌な予感がしただけだ」
「嫌な予感?」
リッツは、怪訝そうにウィリアムを見た。珍しいなと。その視線に気づき、ウィリアムは少しためらった後、首を振った。
「ああ……まあ、大したことはないだろうから、忘れてくれ。それよりも……その村には若い女はいるだろうな?こないだ攫ってきた女が死んじまってから1カ月たつから、そろそろ溜まってるんだわ」
気を取り直したウィリアムは、ゲラゲラと笑いながら、下腹部をさすった。
「さっき、手下の者に訊いたら、結構いるらしいですぜ。しかも、そこの女村長は来月花嫁になるというらしく……」
「ほう!花嫁か!!それは、新郎の前でワシのモノを突き刺してやらねばな!!」
そう言ってウィリアムは立ち上がり、笑いながら部屋を去っていくのだった。
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