第34話 女商人は、部下たちの職場結婚を祝福する

「えっ!?結婚するの?あなたたち、いつの間にそんな関係に?」


 2週間後、【従魔石】の研究の進捗を確認しに来たアリアに、シーロとニーナはそう告げた。二人ともニコニコしているからいいのかもしれないけど、アリアはすごく違和感を感じて、迷った挙句……言った。


「……なんで、シーロは『セーラ服』着てるの?」


 あのとき、お仕置きで着るようにはいったが、あくまであの日限りと伝えたはずだ。それなのに……。


「ニーナさん?まさか……」


 あからさまに目を泳がしているニーナを見て、彼女の企みであることをアリアは悟った。


 レオナルドから、百合趣味があるから気をつけるようにと言われていたから、女性の職場はまずいと思ってシーロの所に配属させたが、まさかそのような手でくるとは……。


「シーロ……。もう女装はしなくていいわよ。早く着替えてらっしゃい」


 申し訳ないことをしたな……と思って、アリアはシーロにそう促す。しかし……


「何を言ってるんですか!?これぞボクが長年求めていたコスチューム!!実に!!じーつぅに、素晴らしい!!!!さあ、アリアさんも着てみましょう!!」


 ……まさかの反論を食らった。


 目を輝かせてガチで言っているシーロから目を逸らし、アリアはニーナを睨むと、彼女も目を逸らした。


「ニーナ……」


「いや……ははは……まさか、ここまで沼ることになるとは思っていなかったって言うか……」


 やらかしたという自覚は、どうやらあるようだった。


 アリアはため息をついた。しかし、シーロのことはどうみても最早手遅れ。性癖が完全に壊れている。ゆえに、放置して話を進めることにした。


「……それで、何かわかったのかしら?」


 アリアがそう言うと、シーロは平静を取り戻して、用意していた資料を机の上に提示した。


「……まず、結論から言えば、【従魔石】は自作できます。そもそも、これは天然石ではなく人造石で、ポトスでも作られているようですし」


「そうなんだ。すると、材料が手に入るか……っていう問題になるのよね?」


「はい。【輝く砂】はマフィー族から購入し、【トロールの脂肪】はマリアーノさんにお願いして、狩りを行えば何とかなるでしょう。……ただ、【赤色魔力の水晶】は、ジャラール族に頼る必要があり……」


 言い淀むシーロに、アリアは唸る。ジャラール族は、ネポムク族と長年敵対関係にある部族で、アリアらが所属する部族連合の一部とは交易をおこなっているものの、接点は限りなく少ない。


「でも……【赤色魔力の水晶】なら、ティーロ族から購入することができるのでは?」


 アリアは、そのことを思い出してシーロに尋ねるが、顔を見る限り芳しくない。


「……ダメなの?」


「おそらくは。この資料によれば、純度がネックのようで、少なくとも70%以上はないと成功率は格段に下がるようです。ジャラール族の物は82%あり、これだと問題はないのですが、ティーロ族の物は55%……失敗する可能性が非常に高いと思われます」


 はあ、とアリアは息を吐いた。つまりは、そのジャラール族と交渉しなければならないということだ。


「取り合えず、交易を通して関係のあるラモン族と話してみるわ。……ただ、うまくいかないことを想定して、ティーロ族産でもいけないか、シーロの方でも検討してもらえるかな?」


「かしこまりました」

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