第33話 族長は、隣人の言いがかりに苦悩する
シーロの絶叫が木霊する頃、オランジパークから離れたネポムク族の本拠地を支配下部族であるアッポリ族の族長、サーリフが訪れていた。
「久しぶりだな、サーリフ殿。さあ、遠慮なくおかけくだされ」
アッポリ族は、ネポムク族の支配領域の中でも西部に居住し、その支配地域にはサファイア鉱山を有していて、ヤンとしては決して軽視することはできない部族であった。ゆえに、突然の訪問にもかかわらず、こうして私的なスペースにこの老族長を招きいれている。
「恐縮です……」
そう言って勧められた椅子に座ったサーリフであったが、どこか表情が硬い。
「いかがなさいましたか?」
訝しんだヤンが尋ねるも、サーリフはどこか言い辛そうにしていた。そこで、ヤンはジェロニモに合図して、少し早いが蜂蜜酒を持ってこらせた。
「まあ、酒でも飲みながら、話しましょう」
この蜂蜜酒は、オランジバークを経由して最近手に入るようになったものだ。ヤンはサーリフの前に置かれた器に注ぎ、それから自分の器に注いで乾杯をしようとしたが、サーリフの器はすでに空になっていた。
「やはり……なにかあったようですな」
ヤンが空になった器に再び酒を注いでいると……
「実は、反乱がおこりまして……」
……サーリフは、ぽつりぽつりと語り出した。
「そのお話、詳しく聞かせてもらいましょうか」
サーリフが語った、『アッポリ族で発生した反乱』というのは、最近、鉱夫として村に受け入れた連中が徒党を組み、現族長であるサーリフに対して、ネポムク族の支配からの独立による生活水準の向上を主張し、最終的には坑道に立て籠もったという話だった。
この立て籠もり事件自体は、アッポリ族の手によって短期間で鎮圧したが、参加者の多くが隣接するジャラール族出身の者であることがわかり、以来、アッポリ族の村では、ジャラール族系の住民が差別される事態が発生しているという。
さらに、サーリフの頭を悩ませているのが、ジャラール族の族長ダネルが自部族民の保護を求めた書簡を送りつけてきたということだ。その書簡には、このまま差別が続くようであれば、自衛的措置として兵を派遣するのもやぶさかではないとまで記されているという。
事態を重く見たヤンは、直ちに重臣たちを招集し、サーリフにも参加してもらったうえで対応を協議しようとしたのだが……
「ゆるせん!!……族長!!ジャラール討伐の下知を!!」
「待て!!証拠がない。動けば、奴らの思うツボぞ!!」
「なにをいうか!証拠がなくても、こんなことをする者など、他にいるわけがないだろうが。問答無用ぞ!!」
……喧々諤々。ヤンの目の前で行われている重臣会議は、意見が割れて紛糾している。
(まあ、俺も一連の動きの背後には、ダネルの糞野郎がいるとは思うが……)
それでも、はっきりとした証拠があるわけではない。今動けば全面戦争に突入するだろう。ゆえに、ヤンの頭を悩ましているのは、戦って勝てるかということである。
(冷静に考えれば、戦力的には奴らの方が若干上だろう。我が部族にはオランジバークを盟主とする連合軍がついているが、加盟する部族の中には連中と繋がりがあるのもいるし、完全に当てにすることはできない。さて、どうするべきか……)
目の前の連中のように、無責任に言えたら……と思い、ヤンは苦笑した。
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