第27話 女商人は、復讐の誓いを思い出す

「くそったれ!!どうしてだ……どうして……こんなことに……」


「たのむ!!助けてくれ!!何でもするから、なあ頼むよぉ!!!!」


 断罪劇の翌日、【あれ】をちょん切った男たちが、海へと入っていく。中には、往生際が悪く浜辺で免罪を求める者もいるが、浜辺を囲んでいる兵士たちに矢を射かけられて渋々海へと進んでいく。


 なお、【あれ】を切った後、患部にはレオナルドが初級の【治癒魔法】をかけている。生えてくることはないが、傷口に塩水が浸かって悶絶することがないようにはしている。但し、痛みが消えたわけではなく……


「ぎゃあー!!」


「痛い!!痛い!!しみるっ!!」


 ……罪人たちの悲鳴がこうして響き渡っている。


 その中には、クレトの姿ももちろんある。しかし、彼はこの期に及んで騒ぐことはなかった。やがて、連中は矢に追い立てながら、かなり先まで泳いでいき、そこに現れた巨大海獣に食べられた。


 おそらく、断末魔のようなものは上げただろうが、離れているためこの浜辺には聞こえなかった。それを見届けて、アリアは宿屋へと向かった。


「レオ……終わったよ。でも、本当に、よかったの?」


 アリアは、暇そうに宿屋の1階でお茶を飲んでいるレオナルドを見つけて、そう尋ねた。すると、レオナルドは何も言わずにアリアの手を取り、左手の薬指に指輪をはめた。


「えっ!?ええー!!!!これって!?」


「親父の遺言。それ、本当の母さんの形見らしいんだけど、アリアの指にはめてやれってさ」


「でも、でも、でも!!薬指って……意味わかってるのよね?」


「さーな?でも、俺はアリアのことが好きだ。独占もしたい。……まあ、そういうことだ」


 レオナルドの言葉一つ一つにあてられて、アリアの顔は真っ赤に染まる。すると、周りから、「おめでとう」とか「あついね」とか祝福の言葉が浴びせられる。さすがのレオナルドも、これには居心地が悪くなり、「行こうか」とささやいてアリアを外へと連れ出した。


 二人はそのまま無言で砂浜へと向かう。まだ、後片付けをしている兵士がいたが、二人は近くにあったベンチに腰を掛けた。


 浜風が吹き、髪を揺らした。


「あのさ」


 レオナルドはおもむろに口を開いた。


「これでよかったんだよ。アリアは何も悩むことはない」


 ただそれだけの言葉。しかし、レオナルドから父親を奪ったのではないかと、一度下した決断を悩んでいたアリアにとっては、救いの言葉だった。


「ありがとう……」


 アリアは、小さな声でそう言った。そして、目を瞑った。


「アリア……」


 レオナルドも同じように目を瞑り、自らの唇をアリアの唇に重ねた。そして、再び離れたとき、アリアは微笑んだ。


「ふふ、これで一件落着かしらね?」


「そうだな」


 レオナルドも微笑んだ。


 この砂浜を見てアリアは思う。思えば、ここから始まったことを。レオナルドに出会って……あれ?その前に……なにか忘れているような?


「あああああ!!!!!」


「どうしたの!?アリア?俺なんかやった?」


 突然、奇声を上げたアリアに目を丸くして驚き、レオナルドは不安を感じた。強引に舌を、先っちょだけでも……と入れようとしたのがバレたのかとドキドキしていると、


「ちがうのよ!レオが悪いわけじゃなくて……そうよ!悪いのは勇者よ!!」


 ……と、のたまった。


「ゆ……勇者?」


「そうよ!あの腐れ外道なクソ勇者に復讐を果たすまで、一件落着なんて、あり得ないわ!!……レオ、そういうことだから、それが終わるまで待っててくれるかしら?」


 それはいつまでなの?と聞こうにも聞けないレオナルドは、一人海に走り出して、


「クッソたれが!!おぼえていろ!!絶対に、絶対にぜ~ったいに復讐してやる!!」


 ……と叫んでいるアリアを生暖かい目で見守った。


(まあ、待てと言えば待ちますが……)


 我ながら、変な娘にホレてしまった者だと、一人ため息をつくのだった。

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