第25話 女商人は、断罪する

「この痴れ者が!!口を閉じろ!!」


 傍にいた兵士がクレトを棒で打ち付けようとしたが、アリアはそれを止めた。


「それで……何を言いたいんですか?」


 やっぱり、この女はちょろいと思いつつ、クレトは話を切り出した。


「アリア嬢……。あなたは何の権利があって、我らを縛り、裁こうというのか」


「何の権利……とは?」


「我らは、ポトスの市民権を有し、さらに言えば母国たるオルセイヤ王国の臣民でもあるのです。その我らを裁こうなどとは、……あなたは国王陛下にでも成られたおつもりですかな?」


 クレトの発言に、縛られていた他の者たちも騒ぎ出す。「そうだ」とか「早く解放しろ」とか好き勝手に叫ぶ者もいる。そんな連中を見ても、アリアは動じることはなかった。


「……クレトさん。では、あなたは母国での裁判をお望みということなのですね」


「そうだ。だから……」


「でも、困りましたね。この地には船はなく、またポトスとの道は盗賊によって塞がれて辿り着くことはできない。あなたの訴えって、どうやって裁判所まで持っていけばいいのかしら?」


 その言葉。クレトはどこかで聞いた覚えがした。……いや、「聞いた」ではなく正しくは「言った」ということを。そのことに思い当たり、先程までの余裕は崩れ去っていく。


「あ……いや…その……」


 何か言わなければ終わるというのに、言葉が全然思い浮かばない。すると、そこにレオナルドが現れた。クレトはすがるように哀願した。


「……レオ!誤解なんだ。おまえの口からも……」


「黙れ!この外道が!!」


「えっ……」


 息子から思わぬ言葉を浴びせられて、クレトは固まった。そして、その後ろにいる娘の姿を目にしてこれ以上ないくらいに顔を青くした。


「……どうして、その女が……」


 この間、ブラスが帰った後いなくなったシスターだった女。クレトはてっきり、ブラスが気に入ってポトスに連れて帰ったと思っていたが、そうではなかったらしい。


「……その人が、イザベラさんなのね」


 アリアは、やさしく言葉をかけると、レオナルドは肯定した。


「ええ。そこの外道どもの被害者です。ホント、こいつら酷いことをしやがるっ!!」


 レオナルドは、怒りを抑えきれずに吐き捨てた。


 イザベラという名のそのシスターは、衣服こそは綺麗なものに改められてはいるが、目はうつろで何を言っても反応しない状態であった。


(こんなに、ひどいとは……)


 アリアは言葉を失った。聞けば、彼女もアリアと同じように騙されて、この地に来たようだ。ただ、違っていたのは、自分の時はレオナルドがギリギリのところで助けてくれたが、彼女の時は誰も助けてくれる人がいなかったという点だ。


 つまりは、一歩間違えれば、自分がああなっていたとアリアは思った。他人事とは思えず、1日も早く彼女が回復できるように、できるだけのことをしようと決意し、予定を変更してすぐさま休ませるようにボンに指示を下した。


 一方、イザベラの登場は、クレトだけでなく他の男たちの動揺も誘った。


 神職にある者に危害を加えた者は、例外なく破門に処されることになっている。破門になれば、臣民の権利どころか、人としての権利を教会の名において否定され、例え殺されても相手が罪に問われることはないのだ。


 つまり、こうなってしまえば、ポトスもオルセイヤ王国も助けてくれることはない。


「……では、そろそろ結論を下しますね」


 アリアはこれ以上の問答を認めず、処罰の内容を告げる。


「村長クレト、並びにこの場に捕らえられし余の者に判決を言い渡します。


 神父殺害とシスターへの暴行及び監禁、周辺部族民の誘拐、人身売買……


 そしてなによりも、あの腐れ外道勇者の片棒を担ぎ、このわたしを騙して娼婦にしようと企んだことは非常に許しがたく、その罪はこの星の総重量よりも重いものである。


 ……よって、全員、【あれ】をちょん切ったうえで、海獣のエサにするっ!!」


 この決定には、罪人のみならず、味方のはずの兵士たちも青ざめて、思わず股間を抑えて震えあがるのだった。

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