第24話 村長は、ヤらなかったことを後悔する
早朝。朝日が昇るとほぼ同時に、オランジバークを見下ろせる小高い丘の上に、その軍団は突然現れた。
「あれは……なんだ……?」
海岸での夜釣りを終えて帰宅しようとしていた住民の一人が、その異様な光景に言葉を失う。丘の上には千人以上の人がいて、様々な色の旗がたなびいていた。
「……敵?……もしかして、敵じゃないのか?」
相方の男が呆然と呟く。「そうなのか?」とはじめの男が訊くが、答えはない。すると、丘の上の軍団はついにこの村を目指して坂を下り始めた。二人は慌てて叫びながら村中を駆け回った。
「なんだって!?敵が攻めてきただと!!一体どこの敵だ!?盗賊か?それとも現地部族どもか?」
「わかりません!!とにかく、数は多くて……」
「ええい!!頼りない!!」
就寝中の所を叩き起こされたクレトは、知らせに来た村人を罵ると、窓を開けて外の様子をうかがう。
今のところ、この屋敷の周辺はいつもどおりの穏やかな朝の風景が広がっているが、北に位置する丘——かつて、教会を建てると言っていた場所——には、様々な色の旗を掲げた兵士たちがいて、明らかにこの村に向かって次々と下ってきている。
(……まさか、これがあの女が言っていた『天罰』なのか?)
クレトの頭を一瞬そのことがよぎった。しかし、今はそんなことを考えている場合ではない。戦えるように衣服を着替え、部屋の壁に飾っていたサーベルを手に階下へ降りる。そこには、レオナルドを除く、彼の家族が勢ぞろいしていた。
「あなた……」
不安そうに呟く妻とその妻にしがみつく幼い子供たち。しかし、クレトは見向きすることなくその前を通り過ぎ、表に出ると馬に跨った。
「あなた!?どちらへ!!」
何も指示を下さなかった夫の後を追ってきた妻が、今にも馬を駆けようとする夫に尋ねるも、クレトは無言のまま南へと馬を走らせる。しかし……
「いたぞ!!あれが村長だ!!」
……すでに、出口は封鎖されたあとだった。
クレトは、馬首を翻し、今度は東の浜辺へと向かう。確か、ボートをそこに隠していたはずだと思い出して。沖合には海獣がいるが、生息域に入らないギリギリの線を通れば、例の港までたどり着く可能性がある。
しかし、結局、浜辺までたどり着くことはできなかった。途中で前後左右を包囲され、クレトは観念した。馬を降り、武器を捨てると、複数の兵士によって縛られて広場へと連れていかれた。
「村長……」
広場には、この村で要職にあった者たちが勢ぞろいしていた。今、力なく呟いたのは、パフパフ屋の親父だ。ポトスに売れなかった女を格安で引き取らせていた相手で、そして、その女どもは自分たちを見下ろすように周囲を囲む者たちの一角にいて、こちらを睨んでいる。
(……どうやら、部族の者どもに知られてしまったようだ)
クレトは天を仰いだ。しかし、自分の後ろにはポトスがいるのだ。結局はなにもできまいと、この期に及んでも高をくくっていた。
「……それでは、我らが盟主のお出ましである!!」
広場全体に聞こえるように兵士が告げると、見たことのある女が壇上に上がるのが見えた。
「お……おまえは……」
思わず、クレトは言葉をもらした。その声は、壇上のアリアにまで届いたようで、
「わたしが代表ですが、なにか?」
……と返された。
クレトは後悔した。この女が首謀者になるとわかっていれば、あのとき、娼館に送るなり、殺しておけばと。しかし、後の祭りだ。それよりも……。
「アリア嬢!あなたに申し上げる!!」
この娘ならば言い包めれる。そう思って、クレトは威儀を正して胸を張って堂々と叫んだ。
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