第19話 女商人は、緊急幹部会議を招集する
それは、突然やってきた。
「えっ!?怪しい人がいたって?」
昼食の準備に取り掛かろうかとしていたアリアに、ボンが伝える。何でも、駐屯地の入り口でいつものように立っていたら、少し離れた崖の上に人がいるのを見かけたというのだ。もっとも、近くにいた仲間に声をかけてその崖に着いた時には誰もいなかったが。
「今日は、レオナルドは来てないわよね?」
アリアの質問にボンが頷く。こんな時にいてくれたらと思いつつも、いないものは仕方ないと割り切り、アリアはボンに幹部たちを集めるように指示した。
それから10分ほどして、幹部がそろったのを確認したアリアはボンから得た情報を伝えた。来るべきものが来たのだろうか、そう思いながら。
「本当に、それは密偵だったのか?」
「一先ず、情報を得ないと。斥候を本村方面に放って……」
「そんなのんきなことじゃ、間に合わないのでは?戦うか、それとも話を聞くのか?」
「話を聞く?どうせ、奴らのことだ。一方的にここの物を全部奪っていくだけさ。俺たちを殺してな。邪魔者も消えるし、連中にとっていいことづくめだ」
……喧々諤々。いろいろな意見が飛び交う。その中で、アリアは情報を整理する。
(まず、本村の連中が来るのであれば、おそらく話し合いにはならない。マルスの言う通り、全部取られて……。つまり、生きるためには戦うしかない)
負ければ、自分も悲惨な末路が待っているのだ。アリアは引き続き、皆の意見に耳を傾けた。
「それじゃあ、戦って勝てるのか?ここにはおよそ30人の人間がいるが、本村の男たちは、1,500人はいるぞ!全員来るとは限らないが、戦って勝てるのか?」
「武器も魔石もある。やってみなければ、わからんぞ」
「ここで戦うのか?こんな柵もない無防備な場所で?」
「それに、武器も魔石もここにはない。取り寄せる時間はあるのか?」
「いっそ、周辺部族に援軍を頼んでみては?」
「それこそ、今からじゃ間に合わんよ!」
(戦うしかないが、戦っても勝てる可能性は少ないか……だったら)
「逃げる……しかなさそうね」
「「「アリアさん!?」」」
幹部の何人かが、軽蔑したような目をアリアに向ける。「所詮は女か。がっかりした」という彼らの心の声が聞こえたような気がした。しかし、アリアはひるまず、まっすぐ彼らの目を見て、自分の意見を話した。
「まず、ここでこのまま戦っても勝ち目はない。そうでしょ?カルロ」
「はい。おそらくは戦いにすらならないでしょう」
「それはどうして?」
「兵力に差もあり、十分な武器もここにはないこと。加えて、防衛拠点にもならないこの駐屯地の地理的条件。勝てる要素がどこにあるというのですかな?」
カルロは戦いに反対する意見を述べていた。そこに目をつけてアリアは話を振ったのだが、その答えはアリアの考えと同じだった。
アリアを睨んでいた者たちの目が彼に向けられた。しかし、カルロも動揺することなく平然と受け流している。アリアは勇気を貰った気がした。
「勝てないのであれば、一旦これを避け、次に勝てるようにすればいいのです。例えば……」
テーブルに広げられた地図を棒で指しながら、アリアは考えを伝える。
「……はは、なるほど」
「確かに、これならば……」
その考えを聞き、駐屯地死守を唱えていた連中も納得する。そして、全員が納得したと判断してアリアは命を下す。
「それでは、直ちに作戦を開始するように!」
駐屯地の昼は、この号令を起点に一転して慌ただしく動き始めるのだった。
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