第20話 女商人は、隠し資産を回収する

「塩はいい!置いていけ!!とにかく、みんな急いでここを出ろ!!」


「いいか、5日後だぞ!!みんな、忘れるな!!」


 広場では幹部たちが手分けして指示を下している。今のところは概ね予定通りといったところだろう。準備ができたグループから、広場を出立していく。


 彼らはこれから分散して交易相手の部族の村々に散っていくのだ。そして、5日後に行った先の部族の兵士と共に、オランジバーグ近郊の草原に終結する手はずとなっている。


「さて……わたしたちも出発しましょう」


 アリアは、ボンとシーロ、それにマルスに告げた。目的地は、銀鉱山の坑道。アリアは知らなかったが、そこに武具や魔石といった戦いに必要な物資が隠されているという。それらの品物の一切合切を魔法カバンに詰め込んで、合流地点に運搬するのがアリアたちの役割だった。


「しかし、いつの間にそんなことを……」


 向かう道すがらに、アリアはマルスたちに尋ねる。すると、それはレオナルドの仕業であることを白状した。


(レオナルド……。あなたは一体どうするの?)


 彼は村長の息子である。なのに、これまでどちらかと言えば、アリアたちに味方をしてきた風にも思える。


 だが、彼には彼なりの思惑があるようにアリアは見ていた。ゆえに、軽々に信じることはできない。もしかしたら、村長に密告したのではないかとまでも考えている。


(……でも)


 できることなら、味方でいて欲しいとアリアは願った。


「……ついたっスよ。敵がいないか、まずは確認してくるっス」


 坑道の入り口が見える岩陰に一先ず身を置くと、ボンが斥候を行うことを自ら申し出た。本音では行ってほしくはないが、アリアは自分の気持ちを押し殺して彼を見送った。


 時間にして15分程度が過ぎただろうか。坑道の入り口にボンが再び姿を見せて手を振っているのが見えた。アリアたちは岩陰から出ると、足早にボンが待つ坑道へと向かった。


 坑道の中は湿度が高く、足元の若干ぬかるんでいた。


「こちらです」


 ランタンに灯をつけたマルスの先導に従って、坑道を奥へと進む。何度か転倒しそうになりながらも何とか進み、20分ほど歩いて目的地に到着した。


「うそ……これ、いつの間に……」


 思わず声を漏らしたアリアの視線の先に、30人が使うには相応しくないほどの膨大な武具、魔石などの物資が山積みにされて保管されていた。


「姐さん……はやく……」


「あっ、そうだね」


 シーロに声をかけられて、アリアは魔法カバンを開いて目の前の物資を吸い込んでいく。この魔法カバンは、ルクレティアの最新かつ最高級の代物で、保管容量も大きければ、こういった吸い込み機能もついている。ムカつくことだが、あの腐れ外道勇者からのプレゼントだ。


(捨てなくてよかった……そう思うことにしよう)


 わずか5分足らずですべての物資を収納することができたことを受けて、アリアは勇者からのプレゼントだからといって棄てるかどうか迷っていた自分の判断にケリをつけた。


 これでこの坑道には用はないと、アリアたちは出口に向かって進む。外に出た後は、ネポムク族の村へと逃れる算段になっている。しかし……


「どうしたの?」


「しっ!誰か来ます」


 出口まであとわずかという所で、マルスの進言した。慌てて岩陰に隠れようとするも、相手のランタンの光がアリアたちの姿を捉えた。


「おや?いつぞやの女商人。ひひひ、こんな所で何をしてるのかな?」


 その下卑た相手を小馬鹿にしたような話し方。聞き覚えがあるとアリアが見ると、かつて村長の前で一番槍を主張した男が立っていた。

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