第16話 遊び人は、悩みながらも任務を遂行する

 夜。ヤンと合流したレオナルドは、入り江が一望できる峠の上に立っていた。ここから坂を下れば、船が停泊している港があり、女たちが監禁されている倉庫もある。


 作戦では、レオナルドが【透明化】して一人港に近づき、【睡眠魔法】を唱えてそこにいる全てを眠らせてから女たちを救出するというものだった。


 その話を聞いたとき、ヤンは「そんなことができるのか」と半信半疑であったが、直後に実際に眠らされ、1時間後に腹に「マヌケ」と書かれたのだ。今では全く疑ってはいない。しかし……。


「どうした?何か心配事でもあるのか」


 いつもと違って憎まれ口が少ないレオナルドを不思議に思って、ヤンが尋ねた。レオナルドは首を横に振り、「何でもない」と返すが、その態度はやはりおかしいとヤンも、側に控えるジェロニモも感じてはいた。


 もっとも、だからといって作戦を中止にするわけにはいかない。今夜を逃せば、女たちはポトスに連れ去られてしまうのだ。ゆえに、それ以上の追及は不毛になると理解して口をつぐんだ。


「それでは、そろそろ行ってくるわ。終わったら、合図するから来いよ」


 そう言って、レオナルドは坂を一人で下っていく。途中で【透明化】の魔法を唱えたようで、最早姿を確認することはできない。


(今頃、あのシスターは……いや、今考えても仕方がないこと。集中しなければ)


 レオナルドは気持ちを引き締め直して、港エリアへ足を踏み入れた。あまり、人気は感じられなかったが、【魔力探知】を起動させると、事務所らしき建物に20名、船に50名ほどの人がいて、監禁されていると思われる倉庫には5人ほどの男が目立たないように周辺に配置されているのがわかった。


 この程度の数であれば、短時間で制圧できるな、と思いつつ、レオナルドは作戦通り【睡眠】の呪文を唱えた。すると、【魔力探知】の表示が、次々と消えていく。そして、最後の一人の表示が消えたとき、レオナルドは【透明化】を解き、峠に向かって持っていた旗を大きく振った。


 すると、ヤンたちネポムク族の騎兵隊が坂を下って港エリアに入ってきた。レオナルドは、倉庫の前に立ち、【解除】の魔法を唱えた。扉が開かれると、そこには20人程度の若い女性いた。全員眠ってはいるが、命には別条はない。


「しかし、これは……」


 その数の多さに、ヤンは違和感を覚えたようだ。よく見れば、サーリ族以外の部族の衣装を纏っている者もいることから、一連の誘拐事件は広域にわたって行われていたものだと推察できる。


(まあ、そんなことはここを出てからだな……)


 睡眠魔法の効果は、個人差はあるものの精々1時間程度だ。その間に、ここにいる女たちを速やかに安全圏まで運び出さなければならないのだ。


 ヤンは、率いていた兵たちに号令を下した。次々と運び出される女たちは、馬にひかれた荷車に乗せられ、満員になったものから出発していく。その途中で、ミーシャが探していたニーナの姿を見つけて、ホッと胸を撫で下ろしもした。


「レオナルド……。改めて礼を言う。ありがとう」


 すべてが終わり、部族の村へと向かう道の分岐点で、ヤンは改めてレオナルドに頭を下げた。レオナルドは、少し居心地悪そうな顔をしたが、「まっ、貸一つということで」を言い放ち、そのままオランジバークの方へ去っていった。


 ヤンは、その後ろ姿をしばらく見送り、その後は……後始末を行うために村へと向かうのだった。

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