第15話 遊び人は、囚われのシスターを発見する

「ようこそ、ブラス殿。大旦那様はお変わりなく?」


「ええ。クレト殿によろしくお伝えするように、とおっしゃられておりました」


「それは、それは。うれしいですな」


 3か月ぶりに交易にやってきた塩商人を、村長であるクレトが自らの屋敷で上機嫌で出迎える。一見、特に普通の懇談のように見えるが、レオナルドは【透明化】の呪文を唱えて、密かに同行する。


 はじめは、塩の取引に関する話し合いだった。それは特に普通通りの交渉で、違和感はない。……いや、少しだけ塩の値段が安いような気がしたが。


「そういえば、何でも教会を建てられるとか?結構なことですな」


(……教会?そんな話は聞いたことないぞ?)


 レオナルドがそう思っていると、クレトが下卑た笑いをしながら、小声で話す。


「それは、方便でしてな。ひひひ……実は……」


「……なんと!しかし、そのようなことを……」


 クレトは、教会の建設を餌にシスターを招いて、飼っていることをブラスに告げた。さすがに、このブラスという男も初めはひいたようだったが……


「よろしかったら、今宵の夜伽をさせますが」


 ……という言葉に陥落した。


 クレトは、書架の端にある聖書を取り出すと、その横にあるスイッチを押した。すると、書架は動き、地下へと続く階段が現れる。


「足元は少し薄暗いですから、気をつけて」


 そう言って、クレトはブラスを地下へと誘った。レオナルドも後に続き、先を進む二人の後を追っていく。すると、そこには檻があり、中には一人の女性がいた。


(なぜ、こんなところに……)


 レオナルドが訝しんでいると、クレトは得意げに説明を始めた。


「この者は、本土から派遣されたシスターで……まあ、すでに我らが毒見をしておりますが、いかがですかな?ブラス殿も食されてみては」


「ほう……シスターとは。もちろん、本物であろうな?」


「もちろんでございます。お望みであれば、真新しい修道服も用意しますぞ。ゆえに……」


 クレトはそっとブラスに近づいて、ひそひそ話をする。ブラスは少し悩むそぶりを見せて、髭を触った。


「うむぅ……。シスターは魅力だが……それにしても少し強気すぎはしないか?」


「なんの!昨夜見ていただいたではありませんか。上玉揃いだったでしょ?このお値段でもお安いくらいですよ」


(今度は、攫ってきた女の買い取り額の話か……。それと、昨夜というと、やはり女たちは秘密の港にいる!)


 この村から南に5kmほど行った入り江に船が現れたのは昨日のことだ。そして、このブラスという商人が村に着いたのは今日。つまり、昨日見たというのならば、その入り江のどこかで、ということになるだろう。


 それが聞ければ十分と判断し、立ち去ろうとしたレオナルドの目に……檻の中に囚われたシスターの姿が入った。


 身に着けている修道服は汚れ、所々破れている。顔つきは美人に該当し、アリアと異なり胸が大きくスタイルもよい。……が、目はうつろで生気はあまり感じられない。毒見をしたというのだから、おそらく村長やその取り巻きに犯された後であろう。


(気の毒に……)


 レオナルドは心の底からそう思った。しかし、だからといって今助けるというわけにはいかない。ここで騒げば、港の女たちを助ける機会を失ってしまうのだ。ゆえに、レオナルドは心を鬼にして元来た道を戻った。


 ヤンと合流して、作戦を遂行するために。

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