第8話 村長は、教会建設詐欺でシスターを招き寄せる

「村長!例のシスターが……はあ、はあ……届いたみたいですぜ!」


 興奮気味を抑えきれないのか、サンタナが息を切らしながらも報告してきた。


「……サンタナ。まずは落ちつけ。そんなことでは気取られてしまうじゃないか。いいか、慎重に行動しろよ」


 村長であるクレトは、心の中ではガッツポーズを決めているものの、表向きは冷静に応対した。


「とにかく、予定通り同行している神父と共に、教会建設予定地に案内した後、歓待の宴を。そして……そのあとの手筈は気づかれないように慎重にな」


「ウィーっす」


 本当にわかっているのかと心配になるが、サンタナが部屋を後にするのをクレトはそのまま見送った。そして、出迎えるために正装に着替え始めた。


 この企みは、あの女商人を北の開拓団に送った後、急に「本土の女を抱きたい」といいだした村人たちの願いをかなえるために練られたものだ。


 前回同様、ギルドを通して『この地に神の教えを広めてくれる神父と若いシスター』の派遣を申請し、のこのこやってきたシスターをみんなで味わうのだ。もっとも、そんな間抜けな者がいるのか半信半疑であったが、どうやら神はいたらしい。


「ところで、レオナルドは今どこにいる?」


 屋敷を出る際、見送りする妻にクレトは尋ねた。以前の女商人のときのように、邪魔されたらかなわないと思って。


「……レオナルドでしたら、北の開拓団の所に行ってますわよ。おそらく、今日は帰ってこないんじゃないですか」


 クレトは、また心の内でガッツポーズをした。しかし、平静を装って家を後にする。向かうは、ギルド支部が置かれている建物だ。


「あっ!村長。例のあれは、今、応接室に居ます。……へへ、中々いい女ですぜ。今晩が楽しみですな」


 ギルドの職員であるこの男が、下卑た笑顔でそう語るが、クレトは無視して応接室に向かう。そして、扉を開けると、立ち上がって出迎えた老神父とシスターに紳士的なあいさつを交わして席についた。





「ほう……これは本格的な教会を。いやいや、クレト殿の厚い信仰心には感服いたしますな」


 何も知らないこの神父は、教会の完成予定図を見ながら大層喜んでいる。その様子がおかしくて笑いそうになるのをこらえながら、クレトは説明を続けた。


 ——実現するはずのない教会の話を。


「では、そろそろ建設予定地に行きますかな?」


 おおよその説明が終わり、クレトはおもむろに立ち上がると老神父とシスターを伴って建設予定地に向かう。そこは、村から少し離れているが、村を一望できる景色のいい場所だった。


「少し……村から離れすぎているのでは?」


 神父が異議を唱えず頷いている横で、シスターが口を出してきた。確かに、ここであれば仮に盗賊などが襲ってきた場合、村からの支援が間に合わないだろう。気の強い女は嫌いじゃないと思いながら、クレトは予め用意していた答えを説明した。


「ここに、教会を置くのは、この地に元々住んでいる異民族の人たちにも我が神の御心に触れてもらいたいと思ったからなのです。もちろん、シスターが心配なさるようなことが起こらないように、警備兵も十分に配置しますゆえ、ご理解いただければ……」


「しかし……」


「やめよ、イザベラ。クレト殿を信じようではないか。新たな信徒の獲得は教会にとっても望むところなのだから」


「それは……そうですが……」


 一抹の不安を覚えて、イザベラはなおも言いつのろうとするが、神父に睨まれて口を閉ざした。


(まあ、ここだろうが、村の中だろうが、教会なんて建てる気はさらさらないんだがね)


 目の前の茶番劇にいい加減、飽き飽きしつつ、「そろそろ」と言って、村へ戻るのだった。

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