第7話 女商人は、商売のタネを手に入れた!
翌日、シーロとその協力者らと共に例の砂浜に行くと、そこには小規模ながら百科事典の挿絵そっくりな『塩田』が作られていた。
「大甕10個程度なら、みんなでやれば1時間程度で作れますので、いつでも声をかけてください」
シーロが胸を張ってアリアに告げた。アリアは考え込んだ。
(1時間程度で大甕10個……。商売のタネにできるのでは)
「だれか、この周辺の部族の村と付き合いのある人はいない?」
来るときに船の上からこの大陸の海岸沿いの様子は見えたが、この近くにそれほど大きな町も塩田もなかった。では、今まで使ってきた塩はどこからきているのか?
昨日からになった甕には、『ポトス』の町の刻印がされていた。ポトスは、ここから船で1日半はかかる場所にある町だ。来るときに寄ってきたので覚えている。
つまり、この周辺の村はそのポトスから塩を購入しているのだ。遠く離れたこの辺りに運ぶだけでも少なくないコストがかかることを考えれば、その価格は決して安いというはずはない。
もし、周辺の部族とのコネクションがあれば、この辺りの塩の流通を牛耳ることができる。アリアはそう目論んだ。
「おっ!面白そうなことをしているね」
「レオナルド!どうしてここに……」
「ん?どうしたのアリアちゃん。俺がここに来たらまずかったっけ?」
「……いや、そうじゃないけど。……フフ、久しぶりで驚いたのよ。ごめんね」
『あなたは、近くの部族の娘に夜這いかけて囚われの身では?』などとは言えず、アリアは取り合えずごまかした。
「???……まあ、いいけど。それで、その塩どうするの?」
レオナルドは、少し釈然としないながらも目の前の大甕に目を向けてアリアに尋ねた。アリアは何のためらいもなく、正直に答えた。
「そうね。できれば本村か部族の村々に売る、もしくは必要な物資と交換できれば……と思うのだけど」
「本村はやめたほうがいい。親父に知られれば、間違いなくアリアちゃんから取り上げて全部自分のものにするはずだ」
「!!」
「もう少し慎重に動いた方がいい。アリアちゃんももっと警戒して。もし、俺が村側の人間だったら、今の答えでゲームオーバー。良くて親父の下で監禁。悪ければ不穏分子として娼婦に堕とされる……いや、殺されちゃうよ」
何時にないレオナルドの真剣なまなざしに、アリアは息をのむ。レオナルドは話を続けた。
「まあ、いずれは知られると思うけど、その時こちらに力がなければすべて持ってかれてしまう。村から遠い所から少しずつ取引を始めて、その縁で現地民との協力体制を構築するのがいいと思う。それから……ん?どうした?」
アリアの顔が青ざめている。ちょっと言い過ぎたか、そう思ったら、おもむろに自分に向けて指を差した。
「にせもの……偽物よ!!みんな早く捕まえて!!」
「ちょっ!?なにを……」
「わたしの知っているレオナルドは、はっきりいって『馬鹿』なのよ!そんな頭のよさそうなことを言うわけないわ!!」
その言葉に、他の面々も動き出す。レオナルドを捕えるために。
「おい!おまえらまでなんで?わからないのか!俺は正真正銘のレオナルドだ!!」
開拓民が繰り出す攻撃をかわしながら、レオナルドは自身が本物であることを訴える。しかし……
「偽物はいつもそういうのよ!本物はきっと夜這いの罪で処刑されてこの世にいないはずよ!」
「なんで、夜這いのことを知ってるんだ」と叫びながら逃げるレオナルドと追うアリアと開拓団。騒動は、レオナルドが納屋に隠れていたところを抑えられるまで続くのだった。
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