第21話 「十和田湖」 戦え! 何と? ドラゴンと!
フィーナ、真冬、青龍の3人は湖の前に立っていた。
破壊された建物が見える。きりたんぽやリンゴという看板が見える。レストランや売店だったものが、残骸となって散らばっている。
それを見るとフィーナの心が痛んだ。
森の奥へ避難した人たちは、すがるような目で「頼む」と言って来た。
その瞳を裏切れない。その言葉に背は向けられない。心からそう思う。
それに、ククリ・サナトは、フィーナの両親の形見のペンダントを灰にした張本人でもある。
「……絶対に勝とう、真冬。これ以上死人は増やしたくない」
「もちろん。当たり前じゃない」
真冬はフィーナの背中をトンと叩く。励ますように。あるいは勇気づけるように。
「負けるつもりはないわよ」
湖から何かが蠢く音が近づいてくる。湖面からざばりと大きなものが出現する。ラドンが現れたのだ。
「おいでなすったのう、怪物め。フィーナ、真冬、用意はいいか?」
「いつでもいいよ!」
「こっちも大丈夫よ」
ラドンが叫ぶ。オオオオオオオオオオオオーーーーーーーン、と地鳴りのような声が腹に響く。
「真冬、合わせて! 結界が破れるまで攻撃を繰り返しまくる! シンプルな作戦だね!」
「ええ、まったくシンプルだわ!」
フィーナ、真冬が同時に魔法を放つ。
だがラドンはひるまない。びくともしない。
「ちっくしょ、やっぱりノーダメか! とんだチートだよこれ!」
「あわてるな、わしも加勢しよう」
青龍が右手をくいっと上げると、湖の水が持ち上がり、ロープのように細長くなって、ラドンの体を幾重にもしばりつけた。
「お、おお! すげえ!」
「どうなってるのよ?!」
「わしは十和田青龍大権現ぞ。この湖の水はすべて、このわしの支配下にある!」
ラドンは再び大きな鳴き声を上げる。オオオオオン、といううなりと共に、水の戒めはたちまちほどけてしまった。
「あっ、ほどけた!」
「……まあ、見ての通りじゃ。もうわしは強くない。このぐらいが関の山じゃ」
それでも十分だ。奈津と楓がうまくやるまで、必死で耐え切る。そういう作戦だ。
「問題ないよ! ジャンジャン攻撃を繰り返しまくる! 今はそれに集中しよう!」
◆◆◆
その頃、奈津と楓はトロールに苦戦していた。
身長2メートルの巨体は、結界装置に近づけさせまいと、こん棒を振り回しながらも、サッカーのディフェンスのように奈津と楓を的確に妨害しづつける。
「くそ! 邪魔ですね!」
「面白い喧嘩になりそうだけど、あいにく
楓の腕力はトロールも危険視しているらしく、楓は2体がかりで羽交い絞めにされる。
「ええい、
楓が両腕を振り回し、トロールを振り落とす。その脇では奈津が敵の攻撃を俊敏によけながらチャンスをうかがっていた。
「まったく。ちょっと通してくれるだけでいいんですけど」
「バカメ。誰ガ通スカ!」
トロールが振り回すこん棒が奈津の頬をかすめる。力強く振り回しすぎで、一つのこん棒が飛んでいき、地面に転がる。
「楓、それを拾ってください! こっちも武器で対抗です!」
「よぅし!!」
楓がオークの攻撃を避けるついでにこん棒を拾いあげる。
「こういうの、アレだべ。鬼に金棒っていうんだべ?」
にや、と笑う楓は、即座に目の前にいるトロールの脳天にこん棒の一撃をブチ食らわせた。
「ブグッ……」
短い断末魔と共に、オークが倒れる。その脳天はぐにゃりと陥没していた。トロールたちの顔色が青ざめる。
「コ、コイツ!」
「化物ダ」
「うはははは! 喧嘩ってのはこうでねぇばな!」
動揺するトロールの群れに、隙間ができる。奈津はそれを見逃さなかった。
「お邪魔させてもらいますよ!」
奈津はすかさず手裏剣を構え、勢いよく投げつけた。
みしり、という音と共に装置にヒビが入る。その瞬間、装置から発生していた結界がみるみるうちに消えていった。
「成功です!」
「よっしゃ!」
二人揃って快哉を上げる。奈津は作戦成功を伝えるべく、すぐさまスマホを起動した。
◆◆◆
「うおおおおおおおおおおおおッ!! 離せー!! 離せってんだよこんにゃろーー!!」
同時刻、フィーナはラドンに食われかけていた。
暴れ狂うラドンは岸に上がり、地面を引っ掻き、炎を弾丸のように吐き、フィーナの下半身を捕まえて捕食しようとしていたのだ。
「ああもう、何やってんのよフィーナ! 頑張りなさい! そのまま食われるんじゃないわよ!」
「まったく! 人間の踊り食いなぞ趣味が悪すぎる! おい真冬、わしに合わせろ!」
青龍が湖の水を持ち上げ、真冬がそれを凍らせる。ラドンの体中に樹木のように氷がまとわりつくが、ラドンは一切ひるまない。身をよじり、少しずつ氷をはがしていく。
「くそ! ブラスト・ボルケーノ! ブラスト・ボルケーノ! ブラスト・ボルケーノ!!」
何度も何度も爆破魔法をラドンの口の中に放つが、効果がない。
フィーナはそこで気づいた。効いていないのではない。ダメージが即座に回復しているのだ。
「ドラゴンに食われて死ぬとか最悪すぎる死に方なんですけど! ああもう! どうにかしないと!!」
その時、フィーナのスマホが震えた。奈津からの着信だ。
必死に片手で操作を行い、電話に出る。
「もしもしッ!」
『こちら奈津です。今大丈夫ですか?』
「大丈夫じゃなーい! 手短にお願い!!」
『結界装置の破壊に成功しました。ラドンに攻撃が効くはずです』
「マジすか!!」
見ると、ラドンが苦しそうに悶えている。体中を氷結魔法で凍らされ、苦しんでいる。先ほどまでの余裕な佇まいは全くない。
「よぉし!」
フィーナは精神を研ぎ澄ます。狙いは、ラドンの口の中。
「ブラスト・ファイアワーク!!」
幾重もの爆破を重ね合わせる広範囲攻撃を、ラドンの体内に解き放った。
「オォォォォォオオオォォォォォォォン!!」
断末魔の悲鳴を上げ、ラドンは体内から爆裂し、壮絶にちぎれ飛んだ。
「や、やった!」
フィーナは喜びの声を上げるが、そのまま地面に落下していく。
「しょうがないわね……動かないでよ、フィーナ! フローズン・アイス!!」
真冬が氷結魔法で、落下するフィーナにクッションを作ってくれた。シャーベット状の氷を何重にも重ね合わせたものだ。おかげでケガひとつなくフィーナは着地できた。
「サンキュー、真冬!」
「まったく。大丈夫、フィーナ?」
真冬が駆け寄り、フィーナの体の泥や土を払いのける。見ると、真冬もフィーナと同じくらい土まみれだ。
「にひひ、おかげさまで五体満足だよ」
「ならいいけど」
笑顔でフィーナはげんこつを向ける。真冬は意図を察したようで、ため息をつきながらもグータッチをしてくれた。
「氷のクッション、助かった。ありがと相棒!」
「誰が相棒よ。無事なのは良かったけど」
「青龍さんもありがとうございます。おかげで助かりました!」
「なあに、気にするでない。十和田湖を守る竜神として当然じゃ」
奈津にも報告しようと電話をかける。
だが、様子がおかしい。いくらかけても、奈津が電話に出ない。
「おかしいな。なんで出ないんだろう」
「まだ向こうでは戦闘が続いているんじゃないの?」
「……奈津んところに合流してみるか」
フィーナの心に胸騒ぎが広がる。3人は足早にその場を後にするのだった。
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