第4話 香辛料

 そのモンブランを口の中に入れた瞬間、私は感動した。神にのみ許される一口。間髪入れずに二口目。女神にのみ許される二口目。口の中で栗のクリームがとろけて口いっぱいに広がる。しっとりしていて、かつ食べ応えもある。さらに、私が何より感動したのはその食べやすさだ。ケーキを倒すことなく食べられるよう、モンブランの下の土台は柔らかくできており、これを作った人物の工夫が感じ取れた。これはさっきの不思議な人物が作ったのだろうか。


「このモンブランとんでもなくおいしいよ。どうやってこの店を見つけたんだ」


 私は大桜に尋ねた。


「いい香りがしたんだ」


 彼は一言そう返した。


 しばらくすると珈琲をもって店の奥から先程の店主らしき人物が現れた。


「先ほどは驚かせてしまい申し訳ございません。わたくし店主のかつらと申します」


 そう言いながら彼は我々の前に珈琲をおいた。彼が珈琲を置くために私に近づいたとき、私は先程の匂いがお香を焚いていたわけではないことに気が付いた。匂いはこの店主から漂っている。


「何の匂いがする?」


 大桜は私の考えてることを見透かしているかのような質問をしてきた。


「桂皮となにかの匂い。もう一つはわからない」


 そう答えると、大桜は笑った。


「君にはそう感じるんだね」


 そう言って微笑むと、彼は残りのケーキにかぶりついた。

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名無しは今日もひそむ 薬売り @Kusuriuri

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