宇宙人

「どうも。僕は、どうしても地球に行きたくて、法律違反を犯してまで、この地球にやって来ました。驚きました。まったく歓迎されなかったからです。どうしようと思いました。望遠鏡から眺めたこの星はとても眩しくて綺麗で、素晴らしいと思ったから、そこに住む人々もきっと素敵だろうと思ったのに。それは勘違いだったようです。

 僕は、小さい頃から地球に行きたいと言うような、変わった子どもでした。僕の星では差別や偏見が絶えません。誰もが口を開けば罵倒の言葉を吐きます。僕はそれが嫌でした。とても嫌でした。本当に嫌でした。だから、星を出ようと思いました。僕の星の住人はみんな臆病なので、星から出たがりません。一生この星で暮らすつもりなのです。なのにどうして、争うのか、僕には理解できません。

 でも結局、どの星も同じなのですね。

 ちょっと、いや、かなり落ち込みました。

 今日、この星を出ます。きっとどこかにもっと良い星があるはずです。では、さようなら」


 隆はその紙を会社帰りに拾った。何の悪戯だろうと思った。宇宙人のふりをして誰かが書いたのだろう。それにしても、いったいどういう悪戯に使おうと思ったのだ?

 隆は何となくその紙を捨てられなくて、折ってコートのポケットに入れた。

 隆は家に帰った。アパートには、妻と子どもがいる。

「帰ったぞ」

 玄関で靴を脱ぎながら言う。

「おかえり」

 リビングから、妻と子どもの声がする。

 リビングでコートを脱ぎ、ハンガーにかけようとすると、あの拾った紙が落ちた。

「何かしら」

 隆の妻がその紙を拾い上げる。

「さあ。会社の前に落ちてたんだ。飛んでいきそうだったんで、拾ったんだよ。会社の誰かが落としたのかもしれない」

「へえ」

 隆の妻は納得したようだった。

「見せて」

 隆の子どもが言う。隆の妻は子どもにその紙を渡した。

「ふーん」

 つまらなそうに読んでいる。

「面白くないか?」

 隆が問いかける。

「わからない」

 子どもは隆にその紙を返した。隆はもう一度その紙を見る。

「地球、か。昔はそんな風に呼ばれていたというが、この紙に書かれていることが本当だとしたら、この宇宙人は何千年かけてこの星に来たんだろうな」

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