第16話 魔法少女と邪神
「じゃァなんだ、お前ら二人は旅を始めたばかりで、ここには観光目的で来たってことかよ……」
「そうだよ!」
少なくとも会話中に襲いかかるつもりはないと、そうベラに伝えてみたが信じていないようだったので砂の城から今までの事を話した。
そもそもこの島に降り立ったのは都が精霊樹を見たがったからで、戦ったのも都のため、世界が終わるのかと錯覚するほどの魔法も都のため、殴って吹き飛ばし気絶させたのも都のため。
それを言ってみたところ、ベラは吸血鬼に対してはもちろん、同じ人間である都に対してもドン引きした。
「それで、幻って何のこと!?」
精霊樹よりもカンザとベラに関しての興味が高まったらしく、都が質問している。
ちなみにこれは余談だが、都は多趣味(というよりも興味対象が幅広い)のため様々な分野に手を出していた。よって魔法少女や悪の組織など、言葉や意味として妙に色々と知っている。
もう攻撃はされないと思ったのか、もはや抗う術もないと諦めたのか、どっちなのかは分からないが、ベラは都の質問に素直に答えていく。
「幻ってのは、アレはカンザだけが言ってることだ。…アタシは、これが幻じゃなくて現実だって知ってる」
そこで一旦ベラは言葉を区切る。
僅かに空気に残っていたハスキーなボイスが完全に消え失せてから、またベラは口を開く。
「ずっと前、この島の人々が次々と死んでった。何が原因なのか、アタシにはさっぱりだったけどなァ……。アタシの先輩……もう死んじまったんだけど……が、空気が澱んでいると言ってた」
「あっ!リズの言ってた毒ガス!?」
「十中八九そうだろうね。それで?」
「……その前に、一つ先に聞きたいことがあるんだ。……………戦神ボースハイト、という名前が分かッか?その神の加護の内容を………知っているなら教えて欲しいんだ」
「これまた懐かしい名前だね。知ってる。有名だったんだよ。…それが?」
「………カンザが、戦神ボースハイトの加護を手に入れてから、おかしくなった」
何かをこらえるかのように唇をガッと噛んだベラに、リズは言葉を投げかける。
「それは運が悪かったね。戦神ボースハイトといえば、人間でのお人形ごっこがだぁぁい好きな悪趣味な邪神だよ」
「邪神?」
うつむいて声を発さないベラの代わりに、都がリズに問いかける。
「邪神、なんてのは人間の主観によるものだけどね。この神は戦神なんて名乗ってるくせに大好きなのは人々のすれ違いとか破局とかなんだよ」
加護を与えることによって、与えられた人間の精神などに影響を与えて実質思い通りにすることが出来る。
それを利用して仲の良い二人を喧嘩させ絶縁させたり、付き合って一年目とかのカップルを刃傷沙汰の痴話喧嘩へと追い込んだり、付き合う寸前の二人のうち一人を別の人と結婚させたり────そういう小さい諍いを見てキャッキャッキャッとしてるクソジジィである───とのことだ。
「それで?“カンザ”への加護の影響は?」
ずけずけと、心の脆い部分へと、都は土足で駆け上がった。
「……忘れられたんだ。それまでのことを、全部。いつの間にか“魔法少女”なんて、いつから出来たのか分からない謎な職業に就いてた。アタシは…………いや、あんたたちに話しても意味はねェよな」
ベラが何かを言いかけた。
けれど続きを知ることは叶わず、カンザの言う幻の話へと戻る。
「カンザの記憶は……おかしいんだ。3日おきに記憶が平和だった頃まで戻る。……だから、カンザにとっては目が覚めたら瓦礫の山が広がっていて、アタシ以外誰もいない。それまで二千年近く経ってることを知らないからなァ………あいつはこの状況が誰かの見せている“幻”、悪趣味な非現実だとそう思ってる」
ふうん、とリズは相槌を打った。
先程ベラはリズと都をまるで狂人であるとでもいうような目で見たが。
3日おきに全て忘れていく友と2人きりで、二千年気が触れることなくその人を思い続けているのも、また。
────狂っている。
「戦神ボースハイトの加護。私、もしかしたら封じ込められるかも」
リズの言葉に、パッとベラは顔を上げる。
目には猜疑心と、期待が宿っていた。
「神様にとって、私たち吸血鬼のようなモンスターはシステムエラーそのものなんだよ。予期せぬ異分子。だから、神は人間相手には簡単に加護で手を出せるけど、吸血鬼はそれを弾く。色々頑張ってみたら、出来るかもしれなくもないんだよね〜まあでもやったことはないよ」
「────た、頼む…!戦っておいて、虫が良すぎるのは分かッてる……!けど…もう、アタシは、…………………忘れられたくないんだ」
ぽた、ぽたと透明な雫を目から溢れさせていく。
か細いハスキーな声で音になったのは、紛れもなくベラの本心だった。
「都、どうする?決めていいよ」
「ねぇ神様が!!いるの!!??気になる!!リズ、どんだけ時間かかってもいいよ!!」
「……みやこ、と言ったな。あんたも大概……ヤベェよ、本当に」
泣き声が混じりながら、そう、ベラが言った。
ーーー
この次の話からはしばらくカンザ&ベラの過去編となります。
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