第14話 魔法少女と悪役の少女
「カンザっ…!」
「ベラ、あんたは下がってなさい!とりゃああああッッッ──!!」
白く透き通るような肌に、次々と目を背けたくなるような傷が生まれていく。
顔にすら傷が出来ていくこと、それすら気にしていられないのか、カンザの目は真っ直ぐリズを向いたままだ。
しかし戦闘に参加することなく、リズの魔法──呪文と、名称は違うようだが──を封じ込めているベラの顔には焦燥が浮かぶ。
その顔に浮かぶ焦燥は、吸血鬼に負けてしまうことの恐れのみによるものではなかった。
セーラー服で駆け回る少女、カンザの身を案じて、傷ついていくことへの恐れも含んでいた。
ベラとカンザ。
二人の話から推測するに、敵同士の関係ではあるものの、共通の敵を目の前にして共闘している──と、都は考えていたが。
それだけではないのかもしれない、とふと都は思った。
ならば何なのか、うまく言い表せる言葉は見つからなかった。
それよりも都は、目の前で繰り広げられている戦いよりも、後ろで光を増している精霊樹の方が気になってきた。
「リズー!!」
「! なあに、都?」
「精霊樹のほう見に行きたい!」
「うんうん、すぐ行こう!これ終わらせるからちょっとだけ待っててね」
都の声に、リズはすっと隣へと現れる。
その様子を見ていた、空振りした刀を持つカンザがひゅっ、と息を呑んだ。二人の会話がきちんと聞き取れないほど消耗していたため、吸血鬼が一般人を襲いに行ったと勘違いしたのだ。
慌てて都の方へと手を伸ばしたカンザは、しかし身が凍りついたかのように動かなくなった。
魔法では無い。何でもない、ただの視線だ。
どのような感情で見ているのかは分からない。その視線に込められた意図も分からない。
それでも、あまりにも恐ろしい、化け物の目だった。
「用事が出来たから、とっとと終わらせるよ」
そう掛けられた言葉に、返事は口から出ることなく、声は消えていく。
吸血鬼は目の前に現れ、そして、衝撃。
世界が空だけになる。
呆然と空を見上げていたカンザは、自分が殴られて吹き飛んでいることを理解し───全身の骨が潰れるほどの衝撃が、その後激突した岩で肌がめくれた激痛が、襲う。
目の前の視界が、溢れ出す涙で歪んでいく。
なぜ。どうして。痛い。痛い。痛い。痛い痛い痛い痛い痛い痛い助けて────
「カンザ────!!!」
悲痛に塗れた叫び声が、ぐわんぐわんと脳みそを貫通し、その後、鈍い、何かを殴った音が聞こえて、地面が何かのぶつかった振動で震えた。
刹那、カンザは痛みを吹き飛ばすほどの激情が湧き上がる。
今のはベラが殴られた音だと、そう理解した瞬間、身を焦がして焦がして炭になっても消えないほどの怒りに包まれる。
「べ、ら………」
歪む視界で、ぴくりとも動かない少女の姿を捉えた。
ずりずり、ずりずりと傷に石を擦り付けながら、その痛みよりも脳みそを支配した怒りの方が強く、進んでいく。
目を閉じて、血で濡れている、灰色の髪も白色のシャツも滑らかな手足も血で染まっている。
だらんと投げ出された手に、自らの手を重ねる。微かに握り返されて、その弱々しい力に、ああ、と頭がガンガンと鳴り止まない。
外側だけじゃない。内側、脳みその中の、痛みがどんどん増えていく。
(なんで、わたし、忘れて…………)
カンザの目が、閉じられる。
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