第13話 魔法少女と第2ラウンド
「────ッ、クソッたれ、おいカンザ!」
「……分かってるわよ!」
銃を持った少女───ベラと呼ばれた少女と、刀を持った少女───カンザと呼ばれた少女が、石の壁で阻まれお互いの姿は見えないものの声を掛け合う。
そして、一瞬のことだった。
ベラの後ろには黒色のモヤモヤとしたものが、カンザの後ろには白色のモヤモヤとしたものが現れて、それをリズが認識した瞬間には。
二人の姿は忽然と消え失せていた。
「あのね、あのねあのね、まずあの氷の!あれが飛んで行ったのがすごくて!その後の炎も沢山あって凄かったし、落ちてくるのも良くって、それでね石の壁!あれ、ドドドって地面から出てきた時のカッコ良さがすっごくヤバい!植物操れるのも憧れる!」
わぁわぁと大はしゃぎの都は、身振り手振りで必死にその身の感動をリズへと伝えようとする。
えへえへへと照れたリズは、にへら笑いが止まらなくなってしまい、緩むその頬をそのままにしている。
そのにへらと笑った顔で、てれてれと照れきった顔で、リズはこてんと顔を傾げる。
「ねえ、ミヤコ。どの魔法が一番好き?」
「えぇーっ、一番…一番…全部好きで、全部すっごくカッコよくて凄くて、うーん一番……あっ、植物のやつが!あれが一番!」
「ふふっ。どうして?」
「だって、あれが一番難しそうに見えたから!難しいのが出来るのは凄い!」
その発言に、リズは目をパチパチと瞬かせたあと、あははっと笑い出す。
「ミヤコは目が良いね」
「え?どういうこと?視力はリズほど良くないと思うけど」
「細かいところまでよく見てるなあ、って思ってね。ふふ……そんなにじっくり私のこと見てるんだね」
「リズのことを見てるのが一番楽しい!から!」
「えっ」
赤面させようと放った言葉は、特大になってリズへと帰ってきた。
顔をギギギギと都から逸らして「嬉しいよ〜ありがとう〜」とぎこちなく言っている。
僅かにリズの耳が赤くなっているのを見て、何故か都の顔が勝手に微笑んだ。
「…?」
都は何故?と首を捻る。
「コホン。とりあえず、あの二人!自分の意思でここから消えたんだとしたら、いつ現れてもおかしくないね」
「確かに!あれって、ワープ?」
「多分。アレ、独自魔法か独自の精霊術なんだよね。離島とかの大陸と違う独自の文化を築いてる場所だとたまにあるんだよ。そういうのだと、発動方法が根本から違うからよく分からなくてね」
「リズでも分からないの?」
「百年どこかで留まってると、あっという間に滅ぶわ生まれるわ成長するわ退化するわでね。人に関係するものって何でも短時間ですぐ変わっちゃうんだよ。それが面白いんだけどね」
ふと、空気の流れの変化を感じとったのか、リズが獰猛な笑いを再び顔に滲ませる。
「二回目が来るよ。ミヤコも戦ってみる?」
「うーん…怪我させたい気持ちは無いからいいや」
自分で怪我させたい気持ちは無くとも、目の前で人が怪我をしていくのには何も思わず、むしろバトルを見たいと喜んでさえいる都。
(……いつかここまで堕ちてきてね)
リズは本能から伸ばしたくなる手を、まだだと押さえつける。
堕ちてくれと望めば、都は堕ちてくるだろう。けどそれじゃ足りない。
都自身で、
だから、今はまだ殺しを見せる時じゃない。怖がられたら悲しいから。
「…ふふふ」
笑みを零しつつ、現れた二人組へと向き合う。
「絶対に負けないんだから!」
「おいおいカンザ、足引っ張るんじゃねェぞ」
「当たり前よ!ベラ、あんたこそちゃんと私に!合わせなさいよ!」
「ふふ。意気込みは十分?」
「さっきは逃げたけど、今回はもう逃げないわよ!絶対に負けない!勝って幻を解いてもらうんだから!」
「だから、それって何のことだかさっぱりだよ」
本当に分からないのになあ、と吸血鬼は、武器を構えた少女たちを見て嘲笑った。
「とりゃあ!!」
掛け声と共にカンザ───先程も使っていた刀から武器は変えなかったらしい───が高く舞い上がる。
セーラー服が爆風で巻き上がるが、気にせずカンザは突っ込んでくる。
「正面突破!!!」
掛け声とともに走ってくるカンザを、余裕の顔で眺めていたリズだったが、何かの匂いを嗅ぎ取ったのか。
鼻をつまんで大きく後ろに飛んだ。
「うげっ、トリカブト!ほかの植物は軒並み滅んでんのに生命力最悪」
「吸血鬼の嫌いなニンニクは見つからなかったけどッ!!トリカブトだって嫌いでしょッ──!!」
カンザの刀が、紫色に妖しく染まっている。どのような方法によるものかはリズには分からないが、刀がトリカブトを纏っていることは分かる。
少しイラついたのか、手を向けて魔法を起こそうとする───が、何も起こらない。
「カンザに気ィ取られてアタシのこと忘れてないかァ?吸血鬼、お前の呪文、このアタシから取り返せるならしてみろよ」
「呪文?ここでは魔法のことを呪文って呼ぶのかな」
手のひらをしげしげとリズは眺める。
そのうちに、ベラはサッとカンザよりも後ろへと下がった。手に持つ銃は依然としてリズを向いている。
「ベラ、やるじゃない!」
「まァな」
カンザは何度もリズへ向かって刀を振り下ろす。リズは危うげなくそれを躱していく。
斬る。躱す。斬る。躱す。斬る。躱す。斬る。躱す。─────何度もその攻防を繰り広げた。
「はぁっ、はぁっ……とりゃああぁっ!!!」
息が段々と切れ始めて、次第に刀の軌道も1ミリ、1ミリとリズからずれていく。
「はぁっ、はぁっ…吸血鬼!絶対に、わたしは、負けないッ───!!」
「ねえ、そろそろお姫様が飽きてきちゃうんだよ。負けを認めるなら話をしよう。無理なら…」
「絶対に、負けを認めるわけには、いかないのよ……!!」
「そう。じゃあ負けを認めるまで戦おう。話がしたくなったら言ってね」
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