第12話 魔法少女と悪の組織(笑)
「はあ?」
眉に皺を寄せて、心底意味が分からないというように首を傾げたリズ。
「聞こえなかった!?今すぐこの、幻を、消しなさいって言ったのよ!」
「幻?何の話?というか、悪の組織って何───」
「しらばっくれないで!」
手に持った刀をぶんぶんと振り下ろし、地面を裂いていく。
その少女は、薄青色の襟とリボンが目を引き、純白が目に眩しいセーラー服を着ていた。膝上までしかない薄桃色のプリーツスカートは、少女が飛び跳ねる度に空を舞う。
編み込みの美しい、夕暮れを思わせるような目の覚めるような赤髪が揺れ動いている。
意思が強く宿った翠色の目が、キッとリズを睨みつけた。
「やっと尻尾を出したわね!やっぱり悪の組織の仕業じゃないの!やっていいことと悪いことが分からないの───!?」
「…あの、人違いでは?」
「はやく街を元に戻しなさい!」
地面にどんどん亀裂が入っていくのを見ながら、隙をついて都の方へと走る。
「あっ、待ちなさい!!」
「ミヤコから言ってくれないかな…何言っても聞いてくれないんだよ」
「分かった!ねえ、リズは悪い吸血鬼じゃないよ!」
「無辜の民を操るだなんて…!」
「あっ、ダメだこれ」
刀を振り下ろせば都に当たってしまうと、歯噛みしながらリズを睨む。
膠着状態となった中で、リズは少女に聞こえないようにとそっと都に耳打ちする。
「……もう一人こっちを見てる。どうなってるのかさっぱりだけど、都はどうしたい?」
「……バトルが見たい!!」
「……そう言うと思ったよ、ふふふ。都は一応ステイでね。戦うのは戦い方教えたあとにすべきだからね」
話し終わったリズはゆっくりと少女へと歩みを進める。刀を握り直した少女は、リズの一挙一動に着目している。
「ねえ、そこに隠れてるもう1人も出ておいでよ」
「…………はァ?おいおい、この距離で気づくとかマジかよ」
都の視力は2.0だが、それでも見えないほどの遠くにいたもう一人の少女が空から降ってきた。
白色のワイシャツ、そして膝下まである黒色のプリーツスカート。着物のような袖の、赤色のパーカーを上からだぼっと着ている。
肩までしかない薄灰色の髪が着地の衝撃で揺れつつ、ハスキーな声があたりに響く。
刀を手に持っていた少女は、目を見開いたあと、その少女も同じように睨みつけた。
「なっ…!!ベラ、やっぱりあんたたちの仕業だったじゃない!嘘なんかついて……!わたし、あんたのことちょっとだけ信じちゃったじゃない!最低!」
「違ェって言ってるだろ。アタシら悪の組織はアレに関与してない。大体、アタシ以外の悪の組織は全員ぶっ倒れちまってるってのに…」
「もうベラの言うことは聞かないわよ!」
「聞けよバカ。アタシはお前と協力するつもりで来たんだよ」
「え?そうなの?」
「そうだよ。アタシも、その吸血鬼が犯人だと考えてる…悪の組織にとっても敵だ。だから協力しに来たんだっての」
「その、私が悪かったわ…ベラのこと疑ったりして。よし!一緒にあの悪い吸血鬼を倒しましょう!」
「人違いですよ〜〜?」
二人の少女の結束が高まっているのを見ながら、リズはあえて二人の会話をぶったぎるようにして大声で言ってみた。
睨む目が2倍になっただけだった。
「はあぁぁあ!!」
目にも止まらぬ速さで振り落とされた刀は、都の目には止まらなかったがリズにはスローモーションのようにすら見えるのか、するりするりと避けていく。
避けた先に飛んできた弾丸も、リズが目を向けるだけでピシピシと凍りついていき、その重さでリズに届くことなく落ちていく。
「バトルってことは避けてるだけだとつまらないよね」
あっ、と思い出したようにぽつりと独り言をこぼしたリズは、にっこりと少女二人に笑いかける。
「せーの」
気が緩んでしまうほどの緊張感のない掛け声とともに、少女二人に目掛けて特大サイズのつららが飛んでいく。
特大サイズ、というのは、都からしてみれば車ぐらい大きいなあと思う程度の大きさだ。
「真っ直ぐ飛ばすだけのものに、当たるわけッ、ないでしょ!」
「バカ、カンザ!!!上だ!!!」
絶叫を聞いて、慌てて上を見た少女の目に飛び込んできたのは、大量の炎が堕ちてくる様子だった。
「こ、のッッ──!!!」
つららを避けるためにジャンプし、着地したタイミングでの炎の追い打ち。
バランスを崩した状態のまま、しかし少女は諦めず刀で炎を斬っていく。
二人の少女は魔法についてよく知らなかったが、それでもその炎の異常さがよく分かる。
───全て青色の、人魂のような見た目なのだ。そしてあまりにも熱い。空気を伝わって、その熱さが身を焦がしていく。
それが、空半分、刀を持つ少女の側だけを埋め尽くすかのようにあるのだ。
「くそッ…!」
必死に刀を振る少女のために、もう1人の少女は駆け出す───が、二人の間に大きな石の壁が出現していた。
「チッ…!!」
石の壁の前で一瞬戸惑ったその隙を、地面から出てきた巨大な植物のツルが、バタン!!と地面に押し潰そうと倒れ込む。
間一髪でそこから逃れた少女だったが、その威力に顔を引き攣らせる。ゾッと鳥肌が立つほどにクレーターが出来ていた。
その様子を眺めている吸血鬼は、さも醜悪に歪んだ笑みをしているのだろうと、そう二人の少女の視線が吸血鬼を捉える。
思い描いていた笑みとは違い、その端麗な顔には優しい微笑みが形作られていて───その笑みの方が、よっぽど恐ろしいと感じるほどに美しかった。
「見栄え重視!出来るだけ長引かせる!色んな魔法使う!ふふん、我ながら完璧」
都という人間ただ一人のために、これだけの魔法を使っていて、後で喜んでいる様を考えてつい頬が緩んでしまっていること。
そんなこと、少女たちは分からない。
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