滅びの島

第9話 旅の始まり

「結局あの地下以外面白いところ無かったね、ミヤコ」


「城の中ほとんど白骨死体だらけだったね」


砂の城の攻略を終えて、都とリズはそう話し合う。


「城全体に時間を遅くする魔法がかかっていたみたいだね。他のところはもう骨だって残ってない」


「道理で!城の見た目とか、数十年しか経ってないように見えてたわけだ!」


全て見終わって目を輝かせ、自分を見ている都を見て、リズは何かを閃いたのかにやにやと笑い出す。

手をおもむろに伸ばして頬をするりと撫でる。


「さ、どうする?あてもなく歩いてみる?それとも一緒に寝たい?」


「歩こう!!」


「…ちょっとは動揺してよ」


はしゃいで飛び跳ね始めた都をよそに、リズは少し拗ねた。


ーーーーーーー


「はやい!はやいよー!!」


「ふふん、吸血鬼は怪我が即治る不死身、使い魔のミヤコも疲れない体力無限になる。つまり、無意識のうちに掛けてたストッパーが外れやすくなって、本気の力で行動ができるようになる!

…っていう理屈ではあるけど、即ストッパー外れるし躊躇しないあたりミヤコってやっぱり最高だね」


突然の、走ってみなよ、というリズの言葉通り走り出した都は次第に満面の笑みになっていく。



「……いやほんとにすっごく相性良かったのかな…」


都がバク宙などのアクロバットを始めたのを見て、リズは呟いた。


「よく恐怖心なく出来るね…!使い魔になったばかりなのに」


「だって!楽しいー!!試して!みな!きゃ!」


叫ぶように言う間にも都は思いつくままに縦横無尽に飛び回る。

砂漠の中で砂埃が舞う中、躊躇いなく目を開いていられるのも都の異常さが垣間見える。

和やかにそれを眺めていたリズは、ふむ…と何かを考えたあと、都に声を掛ける。


「実は吸血鬼って飛べるんだけど、飛んで───まだ話の途中だよ」


目の前に飛び込んできた都に、リズはにやりと笑う。


「たったの5分血をくれるだけで、空へ!どう?」


「最高!!」


「ちなみに首からの吸血なら2分で終わるけど?」


「首からで!!」


ニンマリ顔をしつつ、サムズアップをした都にリズは苦笑を零す。



こほん、とひとつ咳払い。

その後、吸血の時はいつも元の姿に戻ってこその吸血鬼でしょう、と薄く笑い、華麗なヒトの皮がゆるりと消えていく。


ヒトの姿でも目立っていた犬歯がさらに伸びて、牙へと移り変わる。

瞳がどす黒い赤色へと、徐々に染まっていく。

元の姿へと戻った吸血鬼は首を傾けて少女へと笑いかけた。


「日記戻す時は元の姿になってなかったね。一日動けなくなるぐらいの血も取らなかったし…あ、あと最初も吸血する時結局人の姿になってた」


「…今それ言う?」


畏怖そのものの象徴の姿を見たのはまだ2回目というのに、都はすっかり怖さが揺らいでしまったのか、それとも使い魔特有の主人へと向ける純然たる信頼によるものか────平気そうに都はリズへと話しかける。

今回は、というよりも今回も、秒で消えた麗しい雰囲気にリズは唇をとがらせる。


「魔法ってそんなに血いらない?最初に聞いた時に言ってたのはどういうこと?」


「物の時間を巻き戻すのとか、空を飛ぶために力を倍増させる…っていうのは吸血鬼特有の魔法ではなくて、人でも使えるからね。貰った血をマナに変換して使うだけならそんなにいらない。血をマナに変えずにそのまま使う吸血鬼特有の魔法が、たくさん血が必要なんだよ」


「ふむふむ…────あ、前は暗い部屋だったから分かんなかったけど、こう見ると結構表情も分かるね」


「まあ普通にしてる時の骨格は人と似てるからね」


「今回はそのままで血を吸うの?」


「美少女姿で吸血する方が絵になるのは確かだけどね。でもやっぱりこっちの方が楽なんだよ。君らで言う実家みたいな…………なんかちょっと例え違う…」


ミヤコと喋っていると都市伝説としての吸血鬼らしくなくなるよ、とリズはため息をついた。

リズが元の姿へと戻ったことで、都はリズの顔を見るためにはかなり上を向かなくてはならなくなる。

リズが体を折り曲げて都の首筋へと牙を突き立てた。


「はい、終了」


「首からでも全然痛くない!それに早く終わるね!これからは首でよろしく!」


「もちろんそれは私も望むところではあるんだけど…なんというか…やっぱりミヤコといると私の怖さが無くなる」


「怖いと思って欲しいの?」


「ほとんどの同胞はそういう感じだね。私も怖がって欲しい気持ちは、そりゃ少しはあるけど…他の吸血鬼と比べたら薄いかな」


「へえー…うん、空!空飛ぼう!」


「もちろん。ただ一つだけ、吸血鬼は陽の光に弱いから雲の上まで行きたいなら夜にね」


「分かった!ちなみに今何時?」


「私はハイエルフが作った時計を持っててね。どれだけ遠くに行ってもその場所の時間を合わせてくれるし、1秒たりとも狂わない!」


得意げに懐中時計を都へと見せるリズ。都はスマホの時計みたいな機能付きなんだね、とふんふんと頷いた。

ムーンストーンを文字盤として使っており、その神秘的な淡青色がキラキラと輝いている。


「これも魔術品?あ、あと魔法と魔術の違いは?」


「これは魔術と精霊術で作られてる。魔法は体の中のマナを使って起こす超自然的な現象とかのこと。魔術は魔法陣を書くことだね。魔法陣に流すマナは、体内にあるもの、空気中のもの、パワーストーンとか色々かな。体内のマナで起動させても、それは魔法陣を通してるから魔術になる。魔術品は魔法陣が書き込まれた物のことを言うよ」


「なるほど!リズって物知りだね」


「ミヤコがこっちの情報に疎いだけだよ」


「ちなみにこのキラキラ光ってる線みたいなものは、精霊術?」


「……ソレが見えるの?さすが異世界人」


「えっ何か凄いもの!?これってすごいやつ!?」


「そうだよ!さすがミヤコ!」


飛び跳ねた都に、リズはすかさず賞賛で返した。

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