第7話 リズと都と書物と
扉を開けたその先は、真っ暗だったが都の目には何があるか見えていた。
「暗いのに見える?」
「吸血鬼は夜の生き物だからね。見えて当たり前…これは、なんて言ったかな」
光のないその部屋には、人がちょうど入るくらいの透明な箱が置かれていた。
その中には白骨化した死体が、二つ。
「そう、コールドスリープ。どうやら失敗したみたいだね」
「ここだけどろどろに溶けてるね」
都が指を指したその先には、かつてはコールドスリープ用の頭脳であるコンピュータがあった。
今では配線が全て溶けた蝋のようにドロドロになっている。
「なんかあったなそういうの…ああ、そうだ、コンピュータウイルス。異常に熱を持たせて溶かすっていうウイルスを人間が全世界に放ってたね」
「それのせいで、冷凍が止められたってことだね」
「多分ね。どうやって死んだのかは分からないけど」
「どういうこと?」
「元々の病気を治すために眠ったのだったら、冷却されなくなって病死したかも。それか毒ガスが内部に入り込んでしまったかもしれないね。餓死かもしれないし、寿命かも。ま、知りたくないね」
「ここに来るまでの配線は溶けてなかったよね?何でここだけ?」
「あっちは魔術品だったね。一昔前までは魔術品は強い魔法を受けるとすぐ使えなくなってしまうことで有名だったんだよ」
「それがなんの関係があるの?」
「重要な部分は、魔法を使わず作る機械を使っていたんだよ。魔術品と機械では根本から何もかもが違う。でも今ではウイルスのせいで、魔術品だけが残ってる。魔法に弱いだけで耐久力は凄まじかったから」
「なるほど…あ、これは日記?」
目ざとく床に落ちていた書物を都は見つけた。それへと伸ばした都の手を、リズは止める。
困惑した表情で都はリズを見上げた。
「おそらくだいぶ前のだよ。持った瞬間にボロボロに崩れるかも」
「うーん…どうにかして中身見れない?」
「じゃあ血をちょうだい。物の時間を巻き戻すのはかなり疲れるんだよ」
「いいよ!」
「えっ、これはいいんだ…」
どこまでがオッケー…?と悩むリズを他所に都は手首を差し出す。
「さあちゃちゃっと!」
「本当に色気がないなミヤコは!えーっと、人間が滅んで何年経ったっけ…大体五分くらい血を貰えればいけそう」
「ちょっと一旦待って。人って血が無くなりすぎると倒れる気がする」
「そこは大丈夫。吸血鬼の使い魔は回復が早いから飲んだその場から回復」
「永遠に血が湧き出るってこと?飲み放題じゃん良いね」
都はサムズアップした。
「うーんそれ吸血鬼側が言うセリフな気がする…飲み放題って言ってもすぐ私が満腹になるよ」
他愛もない話をしつつ、リズは都から血を吸っていく。
やっぱり美味い、と飲み終わったリズはうんうんと頷いている。
「なんか前より痛くなくなった?」
「使い魔になったからね。あらゆる痛みを最小に抑えてる。こういうメリットを示して使い魔になってもらうのが普通なんだけど…全部すっぽかしてミヤコってば了承したから」
リズが手をかざすと、書物がキラキラと青色の光を纏って浮かび上がる。ラピスラズリのような深い青色である。
書物は薄汚い黄ばんだ色だったのが、どんどん色が抜け落ちていく。表紙も薄灰色だったのが目が覚めるような赤色へと戻った。
「これ以上戻すと書き込まれた内容も消え始める!のギリギリまで戻したものがこちらになります」
「ありがとう!」
リズと都は書物を開き、中身を覗き込んだ。
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