第5話 吸血鬼と少女

「ちゃんと出来てるね…うん、これなら大丈夫そう!久しぶりだったからちょっと不安だったんだよね」


目が覚めた都の右手には一輪のバラが刻まれていた。


「タトゥーシールみたいだね。これが使い魔の証拠になるの?」


「そう。私の一族の…とはいっても今はほとんどいないんだけど、家紋だよ」


「へぇー…あっ!使い魔召喚の話!詳しく!」


「その前に、名前を教えて?お互いの真名を知って始めて契約が意味を持つから」


「あれっ、私名前言ってなかった?」


「ふふ、危機管理が案外しっかりしてると思ってたら忘れてただけだったとは!あっははは!」


目の前の吸血鬼はツボが浅いのか、変なところで笑い始めるなあ、と都は思う。

何がそんなに面白いのか不思議だ。名前を言い損ねていただけなのに。

知りたい、と都はうずうずし始める。


「私の名前は、神山都だよ!なんで名前を教えないことが危機管理能力に繋がるの?」


「私はリズ・トランダフィール・アンズ・デイビス。真名を知られると呪いがかかりやすくなるんだよ。つまり、私はカミヤマの名前を知らなかったから、カミヤマにとって害のある契約を勝手に結ぶことはできなかった」


「あっ、都が名前だよ!神山は名字」


「珍しいね。ってことは、あれかな、ミヤコは異世界人?」


「え?…なるほど、そういうこと!地球が一瞬で滅んだんじゃなくて、一瞬で私だけが移動した世界が滅んでたってことだね」



ようやく自分の置かれている状況を理解した都は、ふんふんと頷いた。


「じゃあ災難だったね。どうりで何も知らないわけだ!ここに来る異世界人は千年に一人程度だから、移動するのはよっぽど珍しいんだよ。帰れないと思うけど、悲しい?」


「楽しいことが沢山ありそうだから、全然!むしろ色んなところ見て回り終えるまで帰るの拒否するよ」


「あはは、私は大当たりを引いたみたいだ!退屈は吸血鬼を殺すと言うからね、君と一緒にいれば毎日楽しそうだよ!」



くるくるとマントを翻して回るリズを見ていると、都は改めてリズは人じゃないんだなと気付かされる。

都は異常だが、リズは異質だった。

二人はお互い以外には疎まれる存在なのだ。


「それで、使い魔契約の話!」


「うんうん、もちろん忘れてないよ。まずね───使い魔契約とは、主人と使い魔という主従関係を強固にするもの。

私とミヤコの契約は、私がミヤコに吸血鬼の不死身の効力を共有し、かつ期限は私の寿命が尽きるまで、もしくはこの契約を破棄した時」


「不死身の効力っていうのは、どんなものがあるの?毒ガスだらけな外を歩けるだけ?」


「ふふっ、この私を誰だと思ってるの!

まず、外を自由に歩けて、何をしても健康に害が出ない。ミヤコは毒ガスだろうが火の海だろうが関係なく進むことが出来る。

───ま、古き血ってことはある意味吸血鬼らしい存在で…私は水を渡ったりとか、ニンニク臭とか、招き入れてもらえていない所は本当に無理なんだけどね。」


「じゃあ私の方が行動範囲が広いってこと?あ、ニンニクに無理なのは何で!?」


「地上ではミヤコの方が行動範囲が広いのは、そうだね。ふふふ…不死身の効力についてはもういいの?

ニンニクが無理なのは…あれ、臭すぎるんだよ」


ころころと興味を変え、1度は話してほしいと願ったことにすぐ興味を無くす。その都の在り方を、リズは好ましく思う。


「臭すぎる?臭いが?」


「そう。例えるなら…そうだね。君ら人間で言うなら、牛のフンだよ」


「えっ?」


「牛のフン吊るしてあったり、ドアの隙間にまでみっちり牛のフンが塗りたくられてる家になんて入りたくないでしょ?

私たち吸血鬼にとって、ニンニクは牛のフンと同等のもの。ニンニクだらけの家なんて絶対に無理!あれ…ギョウザっていう食べ物。なんであんなの食べられるのか不思議」


「美味しいよ?」


「…お願いだから私が血を吸う前にはギョウザ食べないでね」



ええーっ、と都が残念そうな声を上げた。

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