第16話 校舎の中

—1—


 電話を切ってスマホを胸ポケットにしまう。


「志保、洋一くんはなんだって?」


「まだ裏山にいるって。こっちに来るには少し時間がかかるらしいから、私たちであと1箇所の拳銃を探そう」


「それなら早くここから出ないとね。ありす、怖いな」


 私と洋一くんの電話での会話を聞いて、大体のことをありすと芽以は理解していた。


「大丈夫だよありす。力を合わせればきっとうまくいく。そう信じよう」


 私はありすの手を握った。

 自分の不安な気持ちがバレないようにぎゅっと力を込めた。


「志保、どこを探すの?」


 芽以が聞いてきた。

 ありすの握っていた手を離して、体育館の影から校舎の様子を見る。ショーンが昇降口に立っているのが見えた。


「学校の中を探したいんだけどショーンくんが昇降口にいるんだよね」


「裏口から行く?」


「そうだね。そこしかないね」


 ここ、体育館の裏からは少し遠回りになるが、ショーン君との衝突を避けるために、裏口から校舎に入ることにした。

 私が先頭になり、怖がっているありすを真ん中、芽以が後方を担当し陣形を作って向かった。


 問題なく裏口に着くと、ドアが開けっ放しになっていた。そこから校舎の中へと入る。

 静まった校舎が妙に緊張感を醸し出している。


「どうする? 教室1つずつ見ていく?」


「うん。そうしよ」


 ひそひそ声で芽以と話しをした結果、1階の教室から順番に見て行って3階まで全部回ることにした。

 全部回るということは、それだけで危険度が高くなるが、少しでも可能性があるなら探した方がいい。


 1年生の教室から見て回ったが、見つけることはできなかった。

 幸いまだ誰とも遭遇していない。昇降口にショーン君が立っていたということは、Aチームの誰かがこの校舎の中にいるということだ。

 教室を出て階段を使い2階に上がった。


「ストップ!」


 掠れた声で2人に止まるよう促した。

 廊下の奥に乃愛と優夏の姿が見えたのだ。こっちに向かって歩いてきている。


「志保、何? どうしたの?」


「乃愛ちゃんと優夏ちゃんがこっちに来てる」


「えっ、降りる? それともこのまま3階に行く?」


 芽以に答えようとしたとき、既にありすが階段を上り始めていた。


「ちょっとありす、1人で行くと危ないよ」


 私と芽以がありすを追いかける。3階は見えるところに人は誰もいなかった。

 3階には特別教室が多くある。音楽室に美術室、生物室に化学室などまだまだ他にも色々教室がある。


 私たちは、特別教室を見て回ることにした。生物室と化学室には実験器具が色々あって薬品の匂いがした。

 生物室ではメダカを飼っていて、授業の際にはみんなで観察として記録を書いたりしていた。

 エサをあげたり、水の交換もクラス内でローテーションでやっていた。


 水槽を見てみるといつものように何ら変わらずメダカがすいすいと泳いでいたが、上の方に数匹お腹を上に向けて浮いていた。

 ここ何日かエサをあげる人がいなかったから死んでしまったのだろう。


 私は死んだメダカを手ですくって土が入ったバケツの中に埋めてあげた。

 メダカの死も悲しかったが、みんなと受けた授業の風景を思い出したらもっと悲しくなってきた。


 この選別ゲームが終わったら全てがなくなってしまう。

 この瞬間にも、かけがえのない大切のものがなくなり続けている。

 

 生物室にも化学室にも拳銃はなかったので、次に美術室に入った。

 先輩たちが書いた絵の作品の数々が飾ってあった。絵の下に先生のコメントが書いてあった。

 美術室には生徒が作った作品が山のようにあったが、拳銃らしきものはやはりなかった。


「ここにもないね」


「じゃあ、次は音楽室に行こっか」


 音楽室に行こうと教室を出ようとしたら話し声が聞こえてきた。声がどんどん大きくなってくることから近づいてきていることがわかる。


 慌てて飾られている絵の後ろに隠れた。

 隠れたと言っても絵の後ろに来ただけで、回り込まれたら1発で見つかってしまう。それに出口は1箇所しかない。

 声の主は美術室に入ってきた。2人でいるようで、何やら愚痴を言っていた。


「なんで乃愛は拳銃見つけたら葵に渡しちゃダメって言ったんだろう?」


「私にもわからないよ。なんか、葵と武に利用されたまま殺されるのは嫌って言ってたよ」


「殺されるって、俺たちが?」


「うん」


「嘘……」


「だから葵より先に何としてでも見つけないとってさ」


「そうだね。急にいなくなったと思ったら武を連れてきて、Aチームを仕切ってるんだもんな。空雅が死んでリーダーがいなくなったからって少し調子に乗ってるんだよな」


「涼太、そんなこと葵か武に聞かれたら殺されるよ」


「大丈夫だよ。誰もいないんだから」


「ふふふっ、ここにはないみたいね。他の教室に行きましょ」


「だな」


 2人は教室から出て行った。声の主は涼太君ときららだった。

 バレないように息を殺していたので、ふぅーと息を吐き出す。深呼吸をして呼吸を整えた。


「危なかったね」


「ありすは、息を止めすぎて死にそうになったよ」


「もう大丈夫だから」


「なんか、乃愛が裏で動いてるみたいだね」


「仲間割れ? かな」


「まぁ、葵はあの性格だからね。好き嫌いが綺麗に分かれると思うよ」


 私は葵とはあまり関わったことがないので客観的にしかわからないが、男子に対しては八方美人で女子に対しては人を選んで態度を変えているように見えた。

 あくまで客観的にだけど。


「まだ見つけてないみたいだし、私たちも探しに行こう。次は音楽室だね」


「うん」


 音楽室に移動して拳銃を探しているときにスマホが鳴った。


【隠した拳銃が2箇所とも発見されたので特別ルール2を終了する】


「遅かった」


「さっきの隠れてる時間に誰かが見つけたんだね。多分、洋一くんではないと思う」


「このままじゃ結構やばいね。戦力差が他のチームと比べて低い」


「早く学校から出よう。ありすはなんか嫌な予感がするよ」


「嫌な予感?」


「背中がもぞもぞってするの。こうゆうとき大抵悪いことが」


「そのもぞもぞってゆうのはわからないけど私も早く出た方がいいと思う」


 ありすと芽以の意見に私も賛成だ。

 学校の中はAチームの人が何人もいて、いつ見つかるかもわからない。こっちは3人しかいないし、男子に見つかったら恐らく逃げられない。


「うん。じゃあ、早く外に出よう」


 誰もいないことを確認してから階段を降り始める。3階から2階へ、2階から1階に。誰とも会わないことを祈って裏口を目指した。

 階段を下りきって裏口から外に出ようとしたら下駄箱から乃愛が出てきた。


「あっ、志保と芽以、それにありすも」


「乃愛ちゃん」


 乃愛が私たちを見てニコニコと笑っている。


「そんなに怖い顔しないでよ。別に何もしないよ」


「えっ?」


「何? 聞こえなかった? 別に何もしないって言ったんだよ」


「聞こえてるけど、何もしないって?」


「私は、今のこの状況が崩れるのが困るの。志保たちを仮にここで殺したとすると残るのは、洋一1人でしょ。そうすると、洋一は、葵と武に真っ先に殺されてBチームは全滅。残すCチームも敵となるのは、祥平と海沙だけ。葵はその2人を殺した後に武を殺すつもりなの。武は葵と何があって協力してるのかはわからないけど、とにかくそれでゲームを終わらせるつもり。葵は利用できるものは全部利用して、いらなくなったら簡単に捨てるのよ。私はそれが許せない」


 乃愛が葵を憎んでいるのがひしひしと伝わってきた。

 何か因縁があるのだろうけど、私はそれ以上踏み込むことはできなかった。


「私たちとここで戦わない理由はなんとなくわかったけど、乃愛はこれからどうするの?」


 芽以が乃愛に聞いた。


「葵を殺すわ」


「そう……なんだ」


「わかったら早く行きなさい。くれぐれも葵と武には会わないようにね。一応、祥平と海沙にも気をつけなさい。私でもあの2人は何を考えてるのかわからないから」


 乃愛のスマホが鳴り乃愛は電話に出た。

 そのまま乃愛は1年生の教室の方に向かって行った。


 残された私たちは裏口から出てグラウンドの奥の茂みの中に身を隠した。ここで洋一くんが来るのを待つことにした。

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