第15話 裏山での戦い

—1—


 地面は思っていた通りゆるくて粘土質の土が靴に引っ付いてくる。

 生い茂っている木々を避けながら拳銃を探すが、まだそれらしきものは見つかっていない。


 この裏山は高さ的にはそう高くないので、ちゃんと整備された道を歩けばすぐに頂上に着くことができる。


 しかし、今はどこに置かれているかわからないものを探しているので、満遍なく探すしかほかない。

 足を取られないように注意しながら俺たちは頂上を目指して進んだ。


 半分くらい登った時だった。

 頂上付近の木と木の間に祥平を含むCチームがいるのが見えたのは。


 祥平と海沙、琴美、朱莉の4人は立ち止まり何やら話をしていた。

 様子を見る限りまだ拳銃を見つけてはいないようだ。


 俺はみんなに止まるよう指示を出し、頂上に祥平がいることを伝えた。

 あいつは俺と別れる時に「次会ったら容赦なく殺す」と言っていた。

 今、祥平に見つかったら何をされるかわからない。


「上には行けないね」


「仕方ないからこれより上には行かないでぐるっと一周するか」


「上に祥平くんがいるってわかったから慎重に動かないとだね」


「そうだな」


 祥平から俺たちの居場所がわからないように少しだけ裏山を下りて、ぐるりと一周した。

 だが、やはり拳銃はなかった。


 そのまま置いてあるのか、それとも何か箱のようなものに入っているのか。

 それだけでもわかれば見つけやすいというのに。


「洋一、下から葵と武が来てる」


「まじか、くそっ、挟まれたな」


 蓮が指をさした方向に葵と武の2人の姿が見えた。

 こっちに向かって登って来ていた。2人はまだこちらに気付いていない。


 上には祥平たち、下には武と葵。どっちに見つかっても最悪だ。両方に出くわしたらもっと最悪だ。


「裏山は諦めよう。どこか別な場所を探そう」


「急いで逃げなきゃやばいよ」


「うん。このまま真っ直ぐ進んでそこから下りよう」


 俺たちは足早にその場から去った。


 山を下り始めてすぐに銃声が鳴り響いた。上からだった。

 祥平に見つかってしまったのだ。

 祥平は木に身を隠しながらどんどん距離を詰めてくる。海沙と琴美、朱莉もその後を追ってきていた。


「みんな! 下に走れ!!」


 蓮だけが俺と残って、志保たちは山を下りて行った。


「洋一! 会っちゃったから殺すよ」


「祥平、俺の予想が正しければ、お前の弾は今ので残ってないはずだ」


「ほー、数えてやがったのか。でもそんなことやってみなけりゃわからないだろ」


「は? 銃以外で殺したらお前も死ぬぞ」


 祥平からの反応はなかった。


「蓮、行くよ」


「うん。いつでもいいよ」


 靴ひもをぎっちりと結びなおし、丁度いい大きさの石を拾った。


「祥平!!」


 山を駆け上がり祥平が隠れていた木に向かう。祥平も木の影から姿を現し、横に走っていった。銃をこっちに向けている。

 海沙と琴美、朱莉は、祥平と俺たちについてくることができず、後ろを走っている。


 走りながら俺はさっき拾った石を祥平に投げた。

 それを祥平はさらりとかわす。石をかわした祥平は足を止めて持っていた拳銃を投げてきた。

 当然かわすのは簡単で、銃は地面を転がった。


「やっぱりあれで最後だったんじゃないか」


「見透かしたような口調だな」


「見透かしたもなにも事実だろ」


 蓮が祥平に銃口を向ける。


「洋一、撃ってもいい?」


「あぁ、やらなきゃいずれこっちがやられる」


「ちょっと待て! いいのか本当にそれで」


 祥平が前に出て俺たちに近づいた。

 そして、蓮が撃とうとしたのを止めた。


「どういうことだ?」


「いや、特に意味はない」


 祥平が後ろに手を回し、前に戻したら手には銃が握られていた。

 予想外の出来事で一瞬、ほんの一瞬だけ思考が停止した。祥平の手は止まらず蓮に向けると迷うことなく引き金を引いた。

 蓮が撃たれて仰向けに倒れる。


「蓮! 蓮!!」


 倒れた蓮を起こそうとしゃがんだが、蓮は俺の手を借りることなく自力で起き上がった。

 そして、蓮の最後の1発が祥平の左腕に放たれた。


「くそっ、蓮め!」


 祥平がもう1発蓮に銃弾を撃ち込み木の陰に姿を隠した。


「蓮、しっかりしろって」


 倒れた蓮の背中を支えて起き上がらせた。蓮は咳と共に血を吐いた。


「洋一、最後の1発心臓に撃つつもりが全然違う所に当たっちゃったよ。ここぞって時に使ったんだけど役に立てなくてごめん」


「役に立ってないなんてそんなことないって。蓮がいなかったら俺は何回死んでたことか」


「泣くな洋一。泣くのは戦いが終わってからにしろ。残ったみんなを、志保ちゃんを守るのは、洋一しかいないんだから」


「あぁ、蓮。先にあっちで待っててくれ」


 涙を服の袖で拭った。蓮は俺より先に天国に向かった。

 海沙と琴美と朱莉が追いつき、祥平がいる木の影に行った。


【石塚蓮、脱落。Bチーム残り4人】


「祥平、お前銃持ってたんだな」


「蓮が死んだってのにひどく落ち着いた口調だな」


「何人も間近で死なれたからな。それに想いも託された。お前たちは銃を見つけたのか?」


「想いか。銃は頂上で見つけた。全部で5つ。入ってる球数はまちまちだけどな」


「そうか」


 隠し場所の1つは裏山で合っていたのか。

 でも祥平に先を越された。残す拳銃はここ以外のどこかに隠されている。


「どうした祥平。さっきから隠れっぱなしじゃないか。俺を殺すんじゃなかったのか?」


「ああ、殺すよ。だが、ちょっと待て。出血が酷くてな。洋一、逃げるんじゃないぞ」


「それなら待たずにこっちからお前を殺してやるよ!」


 祥平が身を隠している木に走った。

 出てこないのなら俺から行くまでだ。万が一のために祥平や海沙たちからの攻撃も頭に入れて接近した。


 すぐそこまで迫ったとき、どこかで銃声が鳴った。かなり近い距離だ。祥平が隠れている木に銃弾がめり込まれていた。薄っすらと煙が出ている。


 慌てて俺は地面に伏せた。泥だらけになることなんて気にしてはいられない。

 祥平たちも同じく伏せていた。

 撃ってきた何者かの様子を窺っていると話し声が聞こえてきた。


「なにあんた外してるのよ」


「森で撃つのは初めてなんだよ。それにこれだけ木が生い茂ってたら射線がなかなか通らないだろ」


 この憎い声は葵と武だ。徐々に2人の声がはっきりとわかるようになってきた。


「おい、洋一」


 伏せている祥平に話しかけられた。


「いったん休戦だ。協力しろ」


「なんでそんなに上から目線なんだよ。武はお前のチームだろ。誰がお前なんかに協力するか」


「あいつは裏切ったんだよ。葵にうまいこと丸め込まれた」


「そんなこと俺は知らねぇーよ。仲間内の揉め事なのに敵に頼るなよ」


 俺はそう言って静かに移動を開始した。

 立ち上がると葵と武に見つかってしまうので低い姿勢のまま裏山の反対側を目指す。


「おい待てって!」


 祥平の姿が見えなくなって30秒もしない内に銃声が何発も聞こえてきた。

 銃声が聞こえてすぐ、俺は姿勢を通常通りに戻して必死に走った。

 走っている最中にスマホが何回か鳴った。祥平たちと武、葵が戦っているのであろう。


【竹中琴美、脱落。Cチーム残り4人】


【木部朱莉、脱落。Cチーム残り3人】


 琴美と朱莉が死んだ。

 真面目でおとなしい性格だった2人は、クラスではあまり目立たなかったが、文化祭では手際よく焼きそばを作っていたらしい。優しく思いやりのある2人だった。


 祥平と海沙の死を知らせるメールは届かなかった。どうにかして逃げ切ったのだろう。

 息を整えてから志保に電話をかけた。


『もしもし、洋一くん?』


「志保、今どこにいる? そっちは大丈夫か?」


『体育館の裏にいるんだけど近くにAチームの人がいて、ここから動けなくなっちゃった。洋一くんは今どこなの?』


 志保はあえて蓮が死んだことについて触れてこなかった。


「まだ裏山にいる。時間がかかるかもしれないけどそっちには戻れると思う。それと、祥平のチームが拳銃を見つけたらしい。裏山で見つけたらしいから、あと1箇所は学校の近辺だと思う」


『やっぱり裏山にあったんだね。私たちも動けそうだったら探してみるね』


「あっ、うん。無理だけはしないでくれ」


『はーい。じゃあね』


 探さないでプールに戻っててくれと言おうと思ったが、プールにも誰かが来るかもしれない。

 この特別ルールが出ている限り安心できる場所なんてない。元から安心できる場所なんてなかったんだ。この特別ルールが出てそれを思い知らされた。


 あと1箇所、他のチームにこれ以上武器を与える訳にはいかない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る