第12話 ムキムキゾンビ

「諸君。ここは本部の完全保障管理区域だ。絶対安全というわけではないから警戒態勢は解いてはならないが、少し余裕ができた。みんな、水筒を飲んでいいぞ。」


生存者と隊員たちはほっとした様子で水筒を飲む。


「くつろぐなって言ってるのにくつろぐとか。よほど安心を求めてるんだな。どれ、俺も少しカルピスを飲むか。」


ウェイは腰に巻いていたベルトにあるペットボトルに入ったカルピスを飲んだ。


カルピス独特の甘みがウェイの口の中に広がる。


今までゾンビとの戦闘づくめだったウェイにとっては、至福のひと時ともいえた。


「やっぱこういう時に飲む方がカルピスはうまいな。リーリルは?」


「私はいい。」


「分かった。」


ウェイはカルピスのふたを閉めた。


その時。


ガサガサッ


「何かがここら辺にいる!」


ウェイの一言を聞いた全員がウェイに視線を向ける。


ガサガサガサッ


「近づいてきている。」


「ヴヷーヴーヴヷー!」


「この声、近くにいる!」


そういってウェイが後ろを振り向くと


茂みをかき分けゾンビが出現した。

筋肉は異常に発達し、ゾンビ特有の爪はとても長かった。


「ヴ―!」


ムキムキのゾンビは手始めに近くにいた隊員を惨殺した。


「来るなあ!」


近くにいる生存者は散弾銃で応戦する。


しかし、


「ぐはっ!」


ムキムキゾンビに体を貫かれ死亡した。


「機関銃!あいつを撃て!」


ウィルの掛け声でムキムキゾンビに向かい一斉に機関銃を射撃した。


だが


「ヴヷ―!」


「銃が効かない?!撃て撃て!撃ちまくれ!」


いくら撃ってもムキムキゾンビは倒れない。


何発の弾丸を撃ってもそれをすべて地に落とす。


のっしのっしとムキムキゾンビは歩き、次々と隊員を蹴散らしていく。


「うわっ!」


「ぐへっ!」


「ぐわー!」


断末魔が響く。


「畜生!ここはいったん撤退を!」


「ああ!」


3人は後退していった。


だが、


「あっ!」


「ウィル!」


ウィルが転んでしまった。


しかも運悪くムキムキゾンビの近くで。


ウィルはすぐに体勢を立て直す。


だがムキムキゾンビは容赦ない一撃を見舞う。


ウィルの左手が下敷きになった。


「ぐわー!」


「ウィル!大丈夫か!」


「手が痛い。銃を握れそうにもない!だがこんなのは軽傷だ!」


「そうか。先に逃げとけ!俺もあとから行く!」


「分かった!」


ウィルは走り出した。


ウェイとリーリルも後ろを確認しながら逃げる。


しかし。


「気持ち悪い。吐きそう。」


そのリーリルの声にウェイが真っ先に反応した。


「大丈夫か?」


「15分ならいいけど、もう、無理かもしれない。」


「そうか。この状況を切り抜けなきゃいけないときに!どうやって切り抜ける!?」


「ただ逃げるしかねえ!手持ちにこいつを止められるのは!」


ウェイとウィルは手持ちを探った。


「あっ!マッチがあった!この近くに割れやすい瓶か何かはないか?」


「あそこに中身が入ったワインが!」


「お!じゃあやるか!」


ウィルは少量ワインを飲み、マッチを擦って、ワインの中に入れた。


ワインが発火する。


「ウェイ、これをやつにぶん投げろ!」


「分かった!」


その時


ゾンビ独特の匂いが鼻を直撃した。


振り返るとそこには


ムキムキゾンビがいた。


「食らうがいい。おら!」


瓶がゾンビに直撃し、ゾンビは炎上した。


「今だ!奴の隙間を通り抜けろ!」


その言葉通り3人は隙間を通り抜ける。


あまりの熱さに耐えきれず、ムキムキゾンビは倒れた。


「よし。じゃあ本部に」


「ちょっと待って。我慢できない。もう、吐く。」


「いいぞ。終わったら教えてくれ。」


「うん。」


リーリルは茂みに隠れた。


数分後。


「終わった。」


「よし!本部へ行くぞ!」


そこへ。


「ウェイ!リーリル!ウィル!」


「よかった!生きてたのか!」


「グレート!それにロトージ!」


「俺は本部にいたんだが、管理区域内で死体が転がっててね、不安でここに来たのさ。」


「ありがとう。もうゾンビは倒した。」


「なんだよ。ヒーローは遅れてやってくるっていうカッコいいセリフ言いたかったのに。」


「まあ別にいいじゃん。とりあえず本部へ!」


「ああ!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る