第10話 ウェイ教官

「待て待て待て。言いたいことは山ほどあるがまず一番言いたいことを言おう。なんで俺になった!?まだ入隊して間もないのに!」


「お前は銃の射撃制度や体の動かし方が群を抜いている。そんなお前なら生存者を訓練できるのではないか、ということだ。」


「俺はそういうことが生まれつきうまいだけなの!人に教えられる柄じゃないんだって!」


「じゃあ何でリーリルはあんなにうまく銃を使えたんだ?!」


その言葉にウェイは困惑した。


いざというときに自分の体を守れるよう、リーリルには銃の使い方を教えたからだ。


それを応用し、目的に生じて使い分けた結果、リーリルはラフレシアに襲われたときに自分の身を守ることができた。


だから、自分は人を兵士に替える能力を持っていることを、ウェイは思い知った。


つまり、自分は教官の素質があるということだ。


「生存者防衛隊は超法規的措置で銃の所持が可能になっている。ゾンビに対してのみなら使用もできる。だが、奴らの中で銃を使えるやつは数少ない。だからお前が銃の扱い方を教えるんだ。」


「…。いいよ。」


「よし、頼んだ」


そして今、ウェイはカメラの前に立っている。


多くの生存者がいることから、その場での講義は難しいということで、各地タブレットから講義を聴くことになっている。


「これを見ている人の多くは銃を持つことに対して慣れていない初心者です。なので皆さんは主に初心者でも扱える近距離銃を配布されています。」


そして、ウェイの前の机の上に2つの銃が運ばれる。


「拳銃、散弾銃。皆さんが使う銃はこの二種類。これさえあればもしゾンビが現れても十分に対処できます。」


そして拳銃を取り、解説を始めた。


「拳銃。いわゆるピストルですね。拳銃は小さく、持ち運びに適していて、いざというときにすぐ構えられるのが利点です。使い方になれれば使用頻度は多いので、いつも携帯しておいてください。そして、構え方。これはいったん見ておいてください。」


拳銃をベルトにしまい込むと、すぐ横を向き、拳銃を構え、手前の人形に撃つ。


パン!


人形に銃弾が当たった。


「このような感じですぐ抜き取ってすぐ使用できればかなり強いです。主に護身用って感じでしょうか。ただし、拳銃は銃口が小さく、有効範囲が狭いという弱点があります。皆さんにはゾンビ殲滅指令を出すこともあるので、そういう時に拳銃は向きません。ゾンビを確実に倒すにはこの散弾銃が必要となります。」


今度は別の人形が運ばれてくる。


ウェイはすかさず人形に散弾銃を打ち込んだ


パーン!


より広い範囲に銃が飛び、広範囲に散乱したため、かなりの範囲が焦げ付いた。


「このように、一回引き金を引いただけで数発の弾丸が散開して飛んでいくので、当たる範囲が広く、威力も高いです。頭部にあてなくても相当な威力が期待でき、当たればゾンビを一発で仕留めることができます。なので他人を守るときはこれを使用するといいでしょう。」


そういって散弾銃を置いた。


「主な使い方としては主にベルトなどに拳銃を仕込んでおき、いつでも使えるように。ゾンビ退治をするときはその状態のまま散弾銃を持って出かけるとよいでしょう。それでは質問コーナーに入ります。」


どしどし質問が来て、それにウェイはそれに答えていった。


講義が終わり、夕食の時間になった。


隊員たちがそれぞれのテントに夕食を届けに行く。


それはウェイも例外ではなく、いろいろな人のテントに食料が配った。


「講義、とても分かりやすかったです!これでゾンビなんか来ても大丈夫!」

「そうですか。でも、油断はしないでください。奴らは未知の生物である以上、何をしてくるかはわかりません。俺も、入隊した時教官にいつもこういわれていたんです。『相手がいつもこの訓練で想定してきた行動をすると思うな。相手は予測不可能だ。つまり訓練が役に立たないことがある。俺がお前らに指導するのは基礎の基礎だ。本番の時は、相手の動きを読みながら、訓練で覚えたことを一つ一つ応用していけばいい。本番はいつでも前代未聞だ。そのことを心掛けろ!』ってね。」


「はい!」


そして最後、リーリルの元へ入った。


「入っていい?」

「どうぞ。」


テントを開け、リーリルの元へ行く。


どうやら入浴後のようで、濡れた髪を拭いていた。


「夕食。食べたいときに食べといて。」

「分かった。」


リーリルは夕食を運ぶ。


開口一番、リーリルはこういった。


「お疲れさま。」


その言葉は、ウェイが一番言われてうれしかったことだ。


なのに、誰も言ってくれない。


いや、言ってくれないのではなく、言われてもすぐ忘れてしまう。


任務であったことの無力感、達成感、使命感などにすぐさらわれ、言葉としての意味が届く前に忘れてしまう。


しかし、この時リーリルに言われた言葉は、ウェイの心を一瞬で温める言葉だった。


「多くの人の前で銃の使い方を教えるなんて、簡単にできるものじゃないことは一回もやったことない私にだってわかる。それをあの一瞬でできたウェイはすごい。」


その言葉にウェイはどれだけ救われただろうか。


「今日もありがとう。今日は特に話すことはないかな。風呂の進行状況は?」


「かなり進んだ。冷水化の原因を突き止めた。水が暖められる機械が老朽化していてな。すぐに機械を取り換えるつもりだ。あと数日待ってくれれば広い浴槽が解放される。」


「そう。」


その時。


非常用ベルが鳴った。


リーリルはすぐにボタンを押す。


「ゾンビ襲撃!速やかにテントを離れ、避難所へ移動してください!」


「まずいことになったね。」


「とりあえず俺について行け!」


ウェイはテントを開けた。


すると


「ヴヷ―!」


「まずいゾンビだ!」

「なんですって!」

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