第7話 正義
上の階に上がると、そこにはハルが転がっていた。
その体はもう普通ではなく、体はレモン色とも緑とも取れない色に変わりかけていた。
完全にゾンビ化しかけている。
「このままだと、もうすぐゾンビ化しちまう。遺体を輸送中、ゾンビになって襲い掛からないとも限らない。こいつを殺す最善の方法。それは、脳天をぶち抜くことだ。」
ロトージが静かに語った。
その言葉をみんなが黙って聞いていた。
「この中でこいつを殺したいやつはいるか。いないんだったら俺がやる。」
「私がやる!」
「じゃあ、頼んだ。」
リーリルがハルの遺体の前に歩み寄る。
そして、銃口を頭に向けた。
しばらく無言だったが、どうにか言いたいことを言葉に出せた。
「ごめんね。」
その様子をウェイはずっと見つめていた。
あの時ハルを守れなかった無念感と、リーリルの気持ちに対する同情が頭の中で入り混じる。
「こちらこそ、だな。俺がもう少し早く行動していれば、こんなことにはならなくて済んだものを。」
その声に出ない言葉がリーリルに通じたかはわからない。
しかし、リーリルはうなずくと、一気に引き金を引く。
パン!
銃音が鳴った。そのあとは、リーリルが銃をハルの頭からはなしたときにした音以外、何も聞こえなかった。
リーリルが崩れ落ちる。
「終わった…な。」
「ああ。」
「じゃあ、生存者を乗せて帰るぞ。」
車の中。
「生存者を二人救出した。今からそちらに帰還する。」
ロトージが無線で本部に話しかける。
「ご苦労。君たちの任務は完了だ。」
本部の声が聞こえた。
後ろの席では、一人だけ助かった生存者、リーリル、ウェイの三人が乗っている。
リーリルとウェイはただ窓の向こうの景色を見つめていた。
無線の声以外は何も聞こえていなかった。
ロトージは車の液晶の画面の中の、オーディオというボタンを押した。
そしてキーボードで曲を検索し、音楽を流す。
流した曲はずとまよの「正義」
ロトージもとりあえず明るすぎる曲は流してはいけないということはわかったらしく、チョイスした曲だった。
ただ、曲で雰囲気が和むはずもなかった。
「なあロトージ。俺たちの存在意義って何なんだろうな。」
ウェイの質問にロトージはただこう返した。
「そんなこと誰も分からねえよ。ただ一つ言えるのは、生存者を一人だけでも救った時点で、今日の任務は十分果たせたってことだな。」
その言葉を話し終えたとたん、車のオーディオからこんな歌が聞こえてきた。
「生かされてた僕の正義であるように」
その歌詞は、ウェイとリーリルにとってはとある意味を含むものだった。
「さて、そろそろ本部だな。」
ロトージは小声でそう言った。
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