今夜、メッカで

NOVEL OFFICE MT SECO

第1話 デイドリーマーが夜を思う

理性的な人間が勝ち誇ることを許さない夜。

夜は欲望を解放していいという常識。


真理の極地から見返ると常識がいかに非常識であるかと嘲笑う人間がもしもいるのなら、今夜メッカで会えることはないだろう。


常識にまみれた人間は嘲笑っても本当に夜に到達することはできない。

残念ながら、天国がこの世にあることさえ信じようとしないだろう。


武装した兵士たちが他国を攻めたんじゃない。施しのために巡礼に行ったんだ。

ハッジの物語(巡礼)

招かれざる客として成功した彼は、家族へのわずかばかりの信仰を涙と共に捨てた。

ザカートの物語(喜捨)

飢餓の社会情勢は、神が誰よりも彼に賜物を与え御身に招かれたからであろう。

サウムの物語(断食)

家を離れたのは天啓が堂々巡りを繰り返すから。俺に行けと単調な旋律が響く。

サラートの物語(礼拝)

そして、

世界に命の時報を告げるために彼は夜と朝を支配していた。

シャハーダの物語(信仰告白)


夜の間彼らが旅をする。蚊帳の外にぬけだすと、待っていたユニコーンが我に乗れと群れをなして待ち構えている。奇妙な人生を受け入れるには土壌が育っていた。

なぜなら、彼らが育ったアラブの地には昔からいくつかの伝承があり、道徳と倫理の秩序は厳しくも完全な形で今もなお残っているからだった。


選ばれたことを受け入れることも簡単だった。彼らはよく知っていた、人間の限界よりもさらに頭上に光る星々から天馬が降ってくることを。

伝承を信じることはデイドリーマーなのではない。社会の文化が現実を正しく紐づける。

紐付け作業に役に立ったのは言わずもがな、コーランだった。








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