0.5章

 これはまだ、たくやがグリム童話に転生してしまったばかりで、木こりと会うまでの道のりをつづった物語だ。


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「まず、ここがどこなのか———」

 たくやはそうつぶやき、あたりを見回した。見渡す限り、木しか見えない。


「森か、、、。—————わからん、全くもってわからん!」

 グリム童話好きと言っても、流石にヒントが森だけだとなんのグリム童話かわからない。


「とりあえず、森が出てくるグリム童話を思いだせ!!」

 と、たくやは自分に言い聞かせ、近くにあった切り株に座り込んだ。



 1時間後———

 たくやが座り込んだ切り株からいびきが聞こえる。

       ———寝ているようだ。


 それから2時間後——

「やべっ。寝ちゃってた?!」

 たくやは目を覚ました。


「腹減ったなぁ〜」

 元の世界でお昼ご飯を食べてから、たくやはなにも口にしていないので腹のむしがなった。


「なんだ?この匂いは?」

 お腹が空きすぎて嗅覚きゅうかくが普段の8倍になったたくやは匂いに気が付き、その匂いに釣られるようにして森の中を彷徨さまよい始めた。



 そして、ありついた先は———

「———これか!   匂いの正体は!   か!!」

 グリム童話の『ヘンゼルとグレーテル』に出てくる、お菓子の家だった。


 たくやは、空腹に耐えられずお菓子の家からクッキーできたドアノブをそっと盗んだ。

「(ドアノブぐらい大丈夫だよね)」

 さいわいなことに魔女にはバレなかったが、

 この、たくやの行動が吉と出るか凶と出るか—————。




「多分、ヘンゼルとグレーテルたちは森の近くに住んでいたから————次は、森から抜け出して、ヘンゼルとグレーテルの家探しか!!きっつ!!」

 たくやはドアノブクッキーを頬張ほおばりながらなげいた。


 かれこれ、3時間ぐらい森を探索すると小さい家を見つけた。

「これかな?」

 たくやが、家の中を覗こうとした時———

「あれ?久しぶりだね!」

 木こりに声を掛けられた。


「(あ、やべ)」

 まさか、人がいるとは思ってなかった、たくやは動揺した。

「どうしたんだい?」

「……」

 ボロが出ないようになにも喋らなかった。


 木こりはたくやが喋らないことは気にしてないように話し始めた。

「聞いてくれよ〜。うちのヘンゼルがさぁ〜」

!?」

 探していた人の名前が出て、たくやは大声をあげてしまった。


「え?そんなに驚く?」

「——いや、なんでもないよ。話を続けて」


 話を聞くところによると、この木こりはヘンゼルとグレーテルのお父さんで、たくやと友達のようだ。


 木こりは、まだ話し足りなそうだったが、たくやは、

「その話、また今度でいい?」

 と、木こりの話を打ち切った。


 そして、木こりに背をむけ、一言。


「じゃあ、また来るね!」


 たくやはヘンゼルとグレーテルたちの家をあとにし、にやけながら計画を立て始めたのであった———。

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